第五話~ステータス~
『ステータス』──────
自身の力量を数値化し、更に得意とする技能を『スキル』と置き換え、それらを総合して可視化させたもの。
これが神代達の世界である『地球』の小説、ゲーム等でよく目にし、ファンタジーものの中ではお約束と言っていいほどに使用される『ステータス』の定義だろう。
宰相であるマルクが口にした『ステータス』も、それと似たようなものだった。
更にマルクの説明が続く。
この世界では『ステータス』を誰もが見ることが出来、生まれた時から持っているらしい。
『ステータス』の内容は、
名前、レベル、年齢、種族、職業、HP、MP、スキル、称号の順に表示される。
『レベル』は敵を倒すことにより、経験値が入る。経験値が必要分溜まると『レベルアップ』する。『レベルアップ』すると、ステータスの値が上がる。
『種族』はこの世界の種族である人族、獣人族、魔族、エルフ族、ドワーフ族、竜人族の六種族ある中で自分の属する種族が表示される。
『職業』は生まれた時から持っているわけではなく、十五歳、この世界では成人となる日に、自分に合った職業を得ることができる。職業を得ると、それ専用のスキルを得ることができる。
『HP』は生命力だけでなく、それに加えて身体能力、耐久値などの物理的な能力を平均して表している。HPが〇になれば、死亡する。
『MP』は魔力量、知能、精神力などの内面的な能力を平均して表している。MPが〇になると、気絶してしまう。もし戦闘中にMP切れを起こせばそのまま死に直結する。
『スキル』は自分の持っている技術を自動的に補正する能力である。スキルはには『固有スキル』と『通常スキル』の二種類がある。
『固有スキル』は先天的なスキルで、生まれた時から持っており、そのスキルは世界にも同じスキルのある人間がもう一人いるかいないかと言うほど特殊なスキルだ。そのため、『固有スキル』を持って生まれて来る者は少なく、大変希少なものなのである。
それに比べて『通常スキル』は後天的に得られるスキルだ。何らかの条件を満たすか、スキル取得に必要な経験値の一定を越えると『通常スキル』を取得する。『通常スキル』は取得しようと思えば誰でもスキルを取得することができる。
スキルにもレベルがあり、最大は一〇となっている。
『HP』『MP』『スキル』はレベルを上げずとも、その値を上昇させることができる。『HP』や『MP』は自分に負荷を掛け、鍛練することでその値を上げることができる。
『スキル』は自分自身のレベルを上げても『スキル』のレベルは上げることはできない。『スキル』は使用することで経験値を得ることができ、その経験値が一定を越えるとレベルが上がる。
最後に『称号』だが、これは自分の功績等を称号として表示するものだ。魔物を狩ることを得意としていれば、狩りに関する称号を得られる。逆に犯罪を犯せばその罪に関する称号が表れる。また、『称号』というのは他のステータスの項目の中でも一番面白いもので、あだ名や周りの人々が付けた二つ名なんかも表示されるのだ。
「以上がステータスについての説明です。次にこの世界の平均ステータスをお見せします」
そう言ってマルクは懐から一枚の紙を取り出し、神代達に見せる。
神代達は詰め寄りながら紙を見る。
一般人 Lv一 十五歳 人族 農家
HP 一〇 MP 一〇
スキル:農業Lv二、採取Lv一
称号:一般農家
これが平この世界の平均ステータスである。
説明を終えたマルクは、神代達に指示をする。
「それでは勇者様方、心の中で『ステータス』と唱えてください」
神代達一同は宰相の言われた通りに『ステータス』と唱える。
すると頭の中に情報が流れて来る。
神代 刀弥 Lv〇 人族 十五歳 無職
HP 一 MP 一
スキル:異世界言語、鑑定Lv一、刀術Lv一
固有スキル:○*&%
称号:異世界人、加護を打ち消す者
・・・・・・・・・ナニコレ。
よし、落ち着こう、何だこの終わってる感満載なステータスは。平均値どころかその十分の一なのだが。しかもスキル欄に文字化けしたものがある。そして最後の称号の欄、『加護を打ち消す者』というのは何だ。あのショタ天使に女神の加護を貰ったのではなかったか。
他の皆わどうだったのだろうか?
困惑している神代に、マルクの声が聞こえた。
「どうだったでしょうか?ステータスの確認をしたいので見せられるようにしてください。ステータスを他者に見せる場合は、『ステータスオープン』と唱えてください」
マルクの呼びかけの後、クラスメイトの数人の目の前に透明な薄い板のようなものが現れた。その数人の中に浅間や島崎もいた。
神代は二人のステータスを覗く。
浅間 勇 Lv 一人族 十五歳 勇者
HP 一〇〇 MP 一〇〇
スキル:異世界言語、鑑定Lv一、剣術Lv一、光魔法Lv一、成長補正、限界突破
固有スキル:聖剣召喚
称号:異界の勇者、真の勇者、善神の加護
島崎 葵 Lv一 人族 十五歳 賢者
HP 五〇 MP一〇〇
スキル:異世界言語、鑑定Lv一、成長補正、
固有スキル:四属性魔法Lv一
称号:異界の勇者、賢者、善神の加護
「おお!レベル一でこれ程のステータス、さすが異世界の勇者様です」
宰相のマルクが称賛の声を上げる。
神代は二人のステータスと自分のステータスを見比べる。圧倒的に違うステータス、自分の百倍以上あった。他のみんなも同じような結果だろう。
アリとカマキリを並べられたかのような差。もはや諦めた方が良い、そう思わせるステータスに、普通なら絶望するだろう。
しかし、神代はそんなことを考えてはいなかった。神代は全く別のことを考えていた。
それは、
「何で島崎が賢者なんだよ!?」
これ一択である。
「なによ、文句でもあるの?」
「いや、文句もなにもお前が賢者とかあり得ないだろ!似合ってねーよ、お前脳筋だし絶対狂戦士とかだと思ってたぞ!!」
神代の、あり得ない現実から逃げるかのような叫びに、島崎は顔を赤く染めながら怒る。
「なんて失礼なこと言うのよ!私結構成績良いんだから!!」
予想外な一言に目を見開く神代。
そんな神代に浅間が付け足すように言う。
「葵は昔から頭が良かったんだよ?中学の時のテストじゃ上位だったみたいだし」
神代は更に驚き、あり得ないものを見るかのように島崎を見る。
「う、嘘だろ・・・・」
中学の時、神代の学校では、テストの順位等は貼り出されていなかったため、点数等は本人か、本人に聞いた者にしか分からなかったが、まさか、いつも強気で勉強よりも運動が得意そうな島崎が学年で上位の成績だったとは。ちなみに神代は平均よりも下だった。
神代ががっくりとしていると、宰相のマルクが神代に話しかけてきた。
「残りはあなただけです、ステータスをお見せしていただけますか?」
神代はハッとする。どうやら自分以外の生徒全員がステータスを見せ終わったようだった。
神代はマルクの言う通りに、渋々ステータスを見せる。
ステータスを見たマルクの反応は、神代の予想通りだった。
「す、ステータスオール一!?それに、レベル〇・・・・」
マルクの驚愕の声に、この場にいた全員が目を向く。
ステータスオール一、この言葉が神代の胸に突き刺さる。それと同時に、自分の行く末を想像する。良くて皆の笑われ者、悪くて死刑、神代は奥歯を噛み締める。
王国側の四人の反応は────
「このステータスでは王国の救済は難しそうだな」
「と言うより、少しのダメージで死んでしまいますよ」
「確かに、このままでは危ないですな」
「レベル〇という表記は前例がありません。それも含め、どうにかしなければいけませんね」
四人の会話に神代はついて行けなかった。どうやら悪い感情は込められてはいないようだが、これから自分はどうなるのだろうか。
神代が不安げに四人をボーっと眺めていると、四人全員が神代の方を向き、ルイス王が口を開く。
「神代、と言ったな。そなたの処遇だが、他の勇者殿達のように戦ってもらう訳にはいかない。勇者殿達とは別に、訓練を受けてもらう。そなたのステータスでは石ころを投げられただけで死んでしまうのでな、何とか死なないように鍛えてもらうつもりだ。こちらの勝手ですまないが、それでよいだろうか」
思ったよりもよくしてもらえるようだった。
酷い目に会わずに済んで良かったと、心の底から安堵した。
それと同時に、王の言葉が気になった。石ころだけで死ぬと聞こえたが、安心している場合ではなかった。
神代は自分の行く末に再び不安を覚えるのだった。