第四話~王達との邂逅~
大天使セラエルによって異世界アヴルムに転送させられた神代達は、先程の白い空間とは打って変わって、現実の世界のような場所にいた。周りを見てみると、案外広い空間だということが分かった。体育館ほどの広さがあった。
神代はふと、床を見る。そこには教室で見たものと似たようなものがあった。
────魔方陣。
神代は一瞬だけだが、光る教室の中で床に描かれていた魔方陣を見ていた。あの時の魔方陣と今見ている魔方陣は酷似していた。
そしてその魔方陣の中に神代とクラスメイトが収まっていた。神代は浅間と島崎見る。浅間達も神代に気づいたのか、話しかけてくる。
「刀弥!!ここって一体・・・」
「神代、どこよここは?」
神代は二人の質問に答えることはできない。何せ自分もここが何処なのか分かっていないのだから。
神代は後ろを振り向くと、四人の人物が立っていることに気付く。
一人は頭に王冠をのせ、豪華な衣装を着た王様のような格好の四十から五十代の男性が、その隣には、王様(仮)ほどではないものの、どこかの貴族のような四十代の男性が、その横には、全身を鎧で覆った騎士のような人物が立っていた。
全身鎧は性別は分からないが、多分男だろう。最後の一人はローブを着た若い女性だった。神代達(男子陣)はその女性に釘付けとなっていた。輝く金色の髪に透き通るような隻眼の美女、そして極めつけはそのボディラインである。引っ込んでいるところは引っ込んでおり、出るところはしっかりと出ている。一番目が行くのはその豊満な胸元、巨乳というより最早爆乳の域に達している。ひと纏めに言ってしまえば、めちゃくちゃエロかった。
知らない場所に連れて来られているというのに、この緊張感の無さである。シリアス要素が皆無のアホな男子に女子達の怒りの鉄槌が下される。
そんなこんなで緊張感ゼロの空気に呆然としていた四人組は、その内の一人の貴族らしき男が空気を戻そうと、大きく咳ばらいをする。
「勇者様方、我々の召喚に応じて下さり、誠にありがとうございます。我々が勇者様方を召喚した理由は只1つ、この国を救って頂きたいのです」
唐突な貴族らしき男の言葉にクラスメイト達は理解するのに数秒かかった。一番最初にそれを理解した生徒は、声を荒らげる。
「ふざけんな!何処の誰かも分からない奴らに手ぇかすと思ってんのか!?」
現実に戻って来た生徒達も一人の生徒の言葉に乗っかる。
「そうだそうだ!!簡単に信用なんかできるか!!」
「そんなことよりも帰らせなさいよ!」
反対と暴言の大コーラスに、四人は黙って聞いている。
神代は、四人の様子が気になった。何故誰も言い返さないのか?───と。それどころかずっと黙って耐えている。それは一体何故なのか。
そんなことを考えていると、クラスの担任の犬上月夜が生徒達を叱り付ける。
「みんな止めなさい!一方的に責めるのはいけません!!あの人達はずっとあなた達の言葉に耐えてくれているんです、先生は皆さんを悪者にしたくありません!!」
クラスの全員が静まり返った。月夜は只間違いを指摘しただけだ。なのに何故こうも聞き分けがいいのか。それは月夜の人柄にあった。生徒をしっかり見ていてくれ、真っ直ぐな志しを持った人だと生徒達が認識しているからこそできるのである。月夜はそんな生徒達を見ると、優しく微笑んだ。月夜はかなりの美人であり、小柄な女子高生のような顔立ちで、つい守ってあげたくなるような容姿している。彼女の容姿も生徒達から好かれる要因である。月夜は四人に向かって頭を下げた。
「この度は生徒達が失礼をしてしまい、申し訳ありませんでした。みんな本当は悪い子じゃないんです。ただ混乱してしまっているだけで・・・」
確かにこんなところにいきなり連れて来られたら精神も弱ってしまうだろう。
王様(仮)は月夜の謝罪を受け入れ、彼も生徒達に向かって頭を下げる。
「勇者殿、申し訳なかった。勇者殿達を召喚しなければこの国が危うかったのだ」
国が危うい?どういうことなのだろうか。
「まずは順を追って話さなければならないな。まず、私はこのベルガント王国国王ルイス=ベルガントだ。よろしく頼む」
本当に王様だった。(仮)からレベルアップした。
次に貴族らしき男が、
「私はこの国の宰相を務めております、マルク=オーレスと申します」
まさかの宰相だった。貴族だとは思ってはいたが、宰相だったとは。
その次に全身鎧が、
「私はベルガント王国騎士団で騎士団長をしています、ギルバート=ウルバスと言います。今後ともよろしくお願いします」
しゃべった!当たり前のことなのだが、何故か物凄く驚いた。声からして男のようだ。
最後にローブを着た綺麗なおねぃさんがしゃべる。
「私はベルガント王国宮廷魔道師団団長、マリア=カルシュタットです。以後お見知りおきを」
宮廷魔道師・・・・・・魔道師と言うのだから、魔法を使うのだろうか?
これで自己紹介が終わったようだ。マルクが本題に入る。
「さて、勇者様方、まだこの国の危機の詳細を話していませんでしたね。あれは一ヶ月程前のことでした─────」
───── 一ヶ月前
今日もベルガント王国の王都は平和だった。街は人で賑わい、絶え間なく動き続ける人達、物や空、あらゆるものが時間の流れを感じさせる。
そんな王都の外、正確には王都の入り口の門の前、門番のロイド=トリスはいつも通り、門の前の警備をしていた。
「うぅん、この国はいつ見ても平和だねぇ」
ロイドの隣には、同僚のマーク=スペースが気の抜けた声で呟いていた。
「マーク、もう少し気を引き締めろ。この門の前を守るのが俺達門番の仕事なんだからな」
ロイドは、気が抜け過ぎた同僚を咎める。
「そう硬いこと言うなよ。たまには平和な日々ってやつの素晴らしさを噛み締めたいんだよ」
マークの後半の方の意見には、ロイドも同意見である。こんな平和な日々がいつまでも続いていけばいいのに。心からそう思った。その時だった。
自分達から数百メートル先に何かがいた。
「マーク、警戒しろ!数百メートル先、何かいる!」
ロイドの緊張した声に、マークは反応し、同僚の見ているところを見る。
二人はそれを見て警戒を強める。普通ならここまで警戒する必要はない。迫って来ているものは一つだけなのだから。しかし今は普通ではなかった。
それは地を歩くのではなかった。
『それ』は、数百メートル先のその上空を飛んでいたのだから。
やがて数十メートルまでくると、その姿が露になっていく。それは人の形をしている。その者の頭には──────
フッ、と突然その人型が消えた。
刹那、ドグシャァァッッ!!!という何かが砕けるような音が隣から聞こえてきた。ロイドは音のする方を向こうとするが、その瞬間、嫌な気配が体中を駆け巡った。ロイドは咄嗟に手に握っていた槍を正面に防御するように構え、後ろに跳んだ。
その瞬間だった。正面からとんでもないほどの衝撃が体中に襲い掛かった。
「ぐ、があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」
ロイドは叫び声を上げながら、後方へと吹き飛んでいった。そしてそのまま地面の上を転がっていった。体中に鈍い痛みが走る。ふと、隣を見る。そこには口から大量の血を吐き出し、倒れているマークの姿があった。
「ッッッッ!!!!!!」
声を出そうとするも、全く出ない。
マークは口からだけでなく、腕、腹、脚、ほかにもあらゆるところから血が出ていた。
ロイドは感覚で自分の状態を確認する。骨折が十数箇所、打撲多数、内臓も傷付いているようだ。防御した自分でもこの状態。モロに喰らったマークはこんなものではないはずだ。もうマークは助からないだろう。そして、自分も────
殺される覚悟をして、固く目を瞑る─────
────── おかしい。何故死んでない?
そう思って恐る恐る閉じていた目を開く。目の前には金色の瞳でロイドの顔を覗く褐色肌の男がいた。
「──────────────ッツ!!!!!!!!」
ロイドは叫び声を上げようとするが、先程と同じく声が出ない。
ロイドは男の姿を見る。男の頭には角が生えていた。褐色肌、頭の角、先程のあの強さ─────心当たりがあった。
その容姿と実力、
(まさか、魔族か!?)
魔族の男はロイドに話し掛ける。
「よぉ、まさか俺の打撃を喰らってまだ生きてるなんてな。クソザコの人族の癖にやるじゃねぇか、えぇ?」
魔族の男は愉快そうに笑った。その笑みはまるでアリを一回で殺し過ぎて飽きてきた頃に、一匹だけ死なずに生きてることに関心するような笑み。彼の感覚ならこの程度、遊びにも入らないだろう。それほどの圧倒的な差。
魔族の男はそのまま笑みを浮かべながらロイドに言った。
「おまえさ、この俺の攻撃受けてまだ息してんだぜ?これって凄いことなんだぜ?だから特別に見逃してやるよ」
本当は王都ん中で暴れ回るハズだったんだけどな、と危ないことを言う。
魔族の男はそうだ、と名案を思い付いたと言わんばかりの顔をする。
「おまえさ、この国の国王に今から言うこと伝えてくんない?」
断れば悪い未来を見ることになるだろうと思って素直に頷く。
魔族の男は一拍置いて、ロイドに伝える。
「我々魔国ソシエルは領地拡大の為に、まずはベルガント王国を支配する」
「な、に?」
「じゃあ、ちゃんと伝えろよ?」
そう言い残して魔族の男は去って行った─────
「ということがあったと報告を受けたのです。我々に御力を貸してはいただけないでしょうか」
要するに戦いに参加して欲しいと言うことである。
神代は正直参加したくない。戦争なんてものは御免である。
すると浅間が返事を返す。
「僕達は、戦いとは無縁なところにいました。いきなり力を貸して欲しいと言われても、僕達にその覚悟があるかないかを考えさせてください。もし戦えない人がいたら、その人の身柄の安全の確保をお願いできますか?」
ルイス王は浅間の提案を承諾した。
「分かった、約束しよう。しかし、自身の身を守れるように、訓練を全員でやってもらうがいいか?」
「はい、それではよろしくお願いします」
こうして神代達の身の安全は約束されたのだった。
しばらくして、宰相が前に出てきて話し始めた。
「それではまず、勇者様方にステータス開示を行っていただきます」
宰相の口からまた新しい単語が出てきた。