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九十二話 お題:種 縛り:生卵、不惑、川下り、目配り、併発

 十年来の親友から打ち明けられた話である。彼は人を殺したのだという。

「俺の兄貴なんだが、弟の俺が言うのもなんだけどどうしようもないクズでさ。しょっちゅう俺のところに来ては金をせびって、渡さないと俺だけじゃなく妻や子供にまで暴力を振るうんだ」

 彼は離婚も考えたが、彼の奥さんは絶対に離婚はしないと言った。

「あなたは何も悪いことなんかしてないって言ってくれてさ。本当に、なんであんなやつが兄貴なんだって思ったよ」

 彼の兄はどこまでも卑劣な男で、自分に何かしたらお前の女房と子供がどうなっても知らないぞ、と彼を脅したという。困り果てた彼は学生時代趣味でやっていた川下りで知り合った男性に相談をすることにした。

「なんでも探検家らしくて、頭はいいし体力はすごいし人脈は広いし、とにかく頼りになる人だったから、この人ならもしかしてと思って泣きついたんだ」

 久しぶりに会う男性は不惑を迎えているとは到底思えない若々しさで思わず圧倒されたという。男性は彼の話を真剣に聞いたあと、

「いいものがある」

 と言ってわざわざ自分の家から小さな瓶に入った粉を持ってきてくれた。男性は周囲に目配りしてから、

「これを生卵に混ぜて食べさせろ」

 とだけ言い、彼の肩を力強く叩いたそうだ。半信半疑ながらもとりあえず試すだけ試そうと、彼は兄をすき焼きに招待した。怪しまれるかと思ったが兄はあっさりと招待に応じた。彼は奥さんに頼んで兄の分の生卵に男性からもらった粉を混ぜてもらった。粉が混ざった生卵を食べても兄の様子には全く変化がなかったのだが、数日して彼の元に兄が心筋梗塞から左室破裂を併発し死亡したという連絡があった。

「粉のことを聞いたんだけど探検中に見つけた花の種をすり潰したものだ、としか教えてもらえなかったよ。それでも感謝してるけどね」

 彼は今特に目立ったトラブルもなく、幸せだそうだ。

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