九十話 お題:暴く 縛り:段丘、トラスト、老いぼれ、フリータイム、いろは歌
友人の話である。彼は建設会社に勤めているのだが、会社がトラストを行ったことで規模が大きくなった。それによって仕事の量が増えたため、彼は非常に忙しく働いていたのだがある段丘の工事に携わった際妙なことがあったという。
「工事をしてる時に缶を掘り出したらしくてさ。海苔が入ってるようなでかくて四角いやつな。それを現場監督がその場で開けたらしいんだけど」
中にはいろは歌の書き取りがぎっしりと詰め込まれていたのだという。現場監督とその場にいた作業員達は不気味に思いながらもそれを処分した。すると、
「なんか現場監督の様子がおかしくなっちゃってさ。全然元気なくって。自分はただの老いぼれだ、とか言ってるけど、実際は経験豊富ですごく仕事のできる人でさ、陽気だしツアー旅行のフリータイムで観光地回れるだけ回るのが趣味だって自慢してたのに」
流石に心配になり、彼が何か悩みごとがあるんですかと聞くと、
「毎晩夢に知らない女の子が出てきて、私の書き取り見たでしょ、あんまり下手くそだから人に見られないように隠しておいたのに、どうして見ちゃうのって泣きながらずーっと文句言ってくるんだってさ。そりゃ元気なくなるわと思ったよ」
なお、現場監督の話によるといろは歌の字は達筆だったとのことである。