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七十二話 お題:長生 縛り:なし

 女友達から聞いた話である。彼女は子供の頃、猫又に会ったことがあるそうだ。

「本当に尻尾が二つに分かれててね、ちゃんと人の言葉を喋れるの」

 猫又が現れたのは彼女の実家の庭で、通り抜けようとしていたら彼女に見つかってしまったらしい。

「私がちょっとでいいからお話しようって言ったら、仕方ないなって言ってつきあってくれたの」

 彼女は猫又に色んなことを聞いてみたが、大半ははぐらかされたという。ただきちんと答えてくれることもあった。彼女が猫又に、どうやって猫又になったの、と聞いてみたところ、猫又は、

「ご主人に長生きしてくれと言われたから長く生きよう、長く生きようと思ってたら自然とこうなってたのさ」

 と答えた。猫又がまだ普通の飼い猫だった頃、飼い主はお前がいなくなったら私は一人になってしまう、どうか私よりもずっと長く生きておくれと繰り返し言っていたそうだ。

「ご主人は俺より先に死んでしまって、俺は寂しくなった。でも、ご主人は最後まで寂しい思いはしなかったと思う。だから、これでいいんだ」

 そう言って猫又は空の遠くの方をじっと見上げたという。彼女が猫又に、好きなものってある? あるんなら持ってきてあげる、と言うと、

「あぁ、酒だな、角樽が飲みたい」

 と言った。彼女が、かくたる? と聞き返すと、猫又は、

「蜜柑の色をした甘い酒だ。名前からして四角い樽に入ってると思うんだが、探しても見つからない。美味かったし、きっと高くて珍しい酒なんだろう」

 と言った。彼女が猫又に、もしそのかくたるってお酒を見つけたら、また遊びに来てくれる? と聞くと、猫又は、

「そうだな、あれが飲めるんだったら、また来てもいいな」

 そう言ってひらり、とどこかに行ってしまった。その日から彼女は周囲の大人達にかくたるというお酒を知らないか、と聞いて回ったのだが知っている人はいなかった。彼女は高校生の時にやっと、かくたるとはカクテルのことなのだと気づいたという。なお彼女はもう成人して酒も飲めるのだが、一人で晩酌をする時は必ずスクリュードライバーを買って小皿に注ぎ、残った分を飲みながら、猫又がもう一度来てくれるのをずっと待っているそうだ。

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