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六十八話 お題:未来像 縛り:交代、菌交代症、ジェットコースター、口笛、共犯

 知人の男性の話である。彼は肺炎で入院した際に使用された抗菌薬が原因で菌交代症になり、緑膿菌感染症になってしまった。

「ほんと、誰かに交代してもらいたいよなぁ、菌交代症だけに、ハハハ……」

 苦しそうに笑う彼に、思わずつまらないギャグを言う元気があるならまだまだ大丈夫ですよ、と言ってしまったところ、彼は黙りこんでしまった。流石に気分を害したかと私が謝ろうとした時、

「実を言うとね。僕はこうなることをずっと前から知ってたんだよ」

 と言った。私が何の話ですか、と言うと彼は話し始めた。

「高校生の時にできたばかりの遊園地にデートに行って、そこでジェットコースターに乗ったんだよ。乗る時に何となく妙な感じがしたんだ。係員がずーっと口笛をやめないのも気になったけど、一緒に乗った彼女は気にしてないみたいだったなぁ。それでジェットコースターが走り出したんだけど」

 ジェットコースターに乗っている間、彼の視界には自分の未来のことが映し出されていたという。乗っている時間は2分にも満たなかったはずなのだが、その間に彼は自分が今つきあっている彼女とは別れること、高校、大学と無事卒業しそこそこいい会社に就職すること、就職してから社内恋愛を経て結婚をすること、会社で起きた横領事件の犯人の共犯ではないかと疑われ会社を退職させられること、就職活動中に体調を崩して肺炎にかかり、治療のため使用された抗菌薬が原因で菌交代症になり、緑膿菌感染症になること、そしてその結果自分がどうなるのかまで、全て知ってしまったという。

「自分が最後どうなるのかはわかってたんだ。わかってたんだけどいざその時が近づいてくると怖くて怖くて……誰か、どうか誰か代わってほしいって、そんなことばかりずっと考えてるんだよ、弱いよなぁ、情けないよなぁ」

 そう言うと彼は啜り泣き始めた。私はとてもその場にいることができず、また来ます、とだけ言って病室を飛び出してしまった。

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