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五十二話 お題:辛酸 縛り:腎臓、免除、冷え込む、葯

 知人の男性の話である。彼は以前、腎臓を悪くして透析に通っていた。透析は長い時間がかかり、あまりよいことではないのだが途中で眠ってしまうことが度々あった。

「テレビ見たり本読んだりもできるんだけどさ、やっぱり限界があるから」

 それが起きたのは秋にしては妙に冷え込む日だったという。彼はいつものように透析を受け、頑張ってはいたもののすうっと意識が遠のいて眠ってしまった。目が覚めた時、クチャクチャという何かを噛む音が聞こえたので音のする方を見ると、ぼろきれのような服を着た老婆が熱心に何かを噛んでいる。よく見ると老婆は手提げかごを持っており、その中に萎れた様々な種類の花がぎっしりとつめこまれていた。老婆はかごから花を取り出して花の葯の部分をちぎっては口に入れ、それを噛むのをずっと繰り返していた。彼があなた誰ですか、何やってるんですか、と聞くと老婆は、

「大丈夫、治るから、すぐ治るから、治してやっから」

 口の中に大量の花の葯を入れた状態で答えたという。やがて老婆は彼の服をずらして腹を出させると、そこに口の中のものを全て垂らしてすりこみ始めた。彼は絶叫してやめさせようとしたが、手足がまるで動かない。すりこんでいる間老婆はずっと、

「治る、治るよう、すうぐ治るから」

 と繰り返し呟き続けており、それを聞いているとまたすうっと意識が遠のいていった。再び彼が目を覚ますと透析は終わっており、彼がずいぶんと嫌な夢を見たものだと家に帰ると、

「おしっこが出たんだよ。それも元気な頃と同じくらい。嘘だろうと思って次の日電話で先生に言ったら」

 すぐに検査をすることになり、その結果彼の腎臓の機能が回復していることがわかった。担当の医師も検査結果を見て首をかしげるばかりだったという。

「治ったってわかった時は本当に嬉しかったんだけど、うちは俺の病気で色んなもん免除されてたからそれがなくなっちまって、家族も直接言ってはこないけど視線が痛くってさぁ。この年でしかもずっと病気してましたじゃあ中々働き口もないし。元気になって歓迎されないって、こんな辛いことがあるかい」

 彼は吐き捨てるようにそう言ってから、深いため息をついた。

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