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五十話 お題:働き口 縛り:晩期

 友人の女性の話である。彼女は一時期占い師として働いていたことがあるそうだ。

「職場の先輩ともめて辞めたのはいいんだけど、中々次のところが決まらなくって。それで求人広告を眺めてたら占い師になりたい人募集みたいな広告があってさ、半分ヤケで応募したんだよね」

 広告に載っていた番号に電話をすると、中年の女性の声でとりあえず会って話をしたいから履歴書を持って面接に来てくれと言われた。

「ずいぶん話が早いなぁと思ったけど、面接してもらえるだけありがたいと思って行ってみたんだ」

 電話で教えられた住所はマンションの一室のもので、彼女は若干不安に思いながらその部屋を訪ねると、電話と同じ声の中年の女性が出迎えてくれたそうだ。

「占い師って言っても見た目は普通のおばさんでね。ただ話してる時ふっと視線が外れるのがちょっと気になったんだけど。でも、やる気があるなら是非働いてくれって言われて、仕事も欲しかったし面白そうだからやってみることにしたの」

 次の日から彼女は占い師の女性の手伝いをしつつ、占いの勉強を始めた。勉強は思っていたのと違い、占うというより占っているように見せかけるようなものばかりだったという。

「とにかくお客さんの反応を見て、お客さんの望む答えを返していくことが大事だって言われて。それでいいのかなぁって思ったんだけど、折角見つけた職場をすぐなくすのも嫌だったから」

 やがて彼女は女性からお墨つきをもらい、一人でお客さんのことを占うようになった。最初は一度占ってそれっきり、ということばかりだったが、段々と繰り返し来てくれるお客さんが増え、それに伴って収入も増えていった。

「占いって儲かるんだぁって思ってね。ただちゃんとした勉強もしてないのにいいのかっていう後ろめたさは常にあったなぁ」

 占い師の仕事の晩期に、彼女はあることに気づいた。

「占いがやけに当たるようになってたのね。占ってるうちに本当に実力がついたのかと思ったんだけどそうじゃなかった。現実のことを占いで当ててるんじゃなくて、現実が私の占いの通りになってたの」

 思い込みではないか、と私が言うと、彼女は、

「あるお客さんが子供が病気でどうしたらいいかわからないって言ってて、私がお子さんの病気はよくなりますよって占ったら本当に治っちゃったの。別のお客さんは大嫌いなやつがいるんだけどいなくならないだろうかって言ってきたから、私がいなくなりますよって占ったらその人が死んだってことを笑顔で報告されてね。そんなことが何度も何度も続いて、評判が勝手にどんどん上がっていって、もらえるお金もどんどん増えていって、ある時自分のやってることはなんなんだろうって考えちゃって、それでもう続けられないなってなったの」

 占い師の女性に辞めることを伝えたところ、あなたには占い師として最高の能力があるのにそれを捨てるのかと鬼のような形相でつめよられたが、彼女は女性のことを突き飛ばしてその場から逃げたそうだ。

「それがどんなにすごいものでも、身の丈に合わない能力を持っちゃったら結局不幸になるんだってよくわかったよ」

 彼女は今結婚し、専業主婦として静かに暮らしているそうだ。

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