四十九話 お題:大所高所 縛り:モザイク、蓮台、軍閥、当たり年
私の祖父の話である。祖父は生前は旧陸軍の将校で、当時陸軍内で有力な軍閥に所属していた。ある秋の日、祖父は陸大の同期と飲みに行き、その帰り道で困った様子の女性に出会った。身なりはよくないが顔立ちは非常に整っており、酔って気の大きくなっていた祖父は何かお困りですか、と声をかけたという。女性は梨が食べたいのですが、お金がないのですと祖父に言った。その年は梨の当たり年で祖父の家にはもらいもののよく熟した梨が大量にあり、家の近くまで来ていたこともあってわざわざ家の梨を風呂敷に包めるだけ包むとその女性にあげたそうだ。女性は大いに喜び、このお礼は必ずと言って立ち去った。祖父は珍しいほどの美人と話せただけで満足しており、お礼のことは特に気にしていなかったのだが、数日後その女性はわざわざ祖父の家を訪ね、梨のお礼の品ですのでどうぞお納めくださいと一枚の絵を差し出してきた。その絵は実に奇妙な絵で、モザイクの技法で描かれた蓮台に座る仏の絵だった。女性は幸運を呼ぶ絵ですのでどうか大事になさってください、と言って立ち去り、祖父はもらった手前もあり自室にその絵を飾ることにした。しばらくして祖父は難病にかかり、軍を退役せざるをえなくなった。その後第二次世界大戦が始まったが祖父は辛うじて生き延び、退役していたおかげで戦争責任を問われることもなかった。祖父は亡くなる直前、女性からもらった絵を見ながら、仏様の授けてくれる幸運はどうにもわかり辛くていかんなぁと呟き、そのまま亡くなった。