三十五話 お題:シャーベット 縛り:扶養
従姉が体験した話である。従姉は子供の頃に両親を事故で亡くし、父方の祖父母に扶養されることになった。両親が亡くなってからしばらくの間は寂しさで泣いてばかりいたそうだが、次第にそれも少なくなり、祖父母との生活にも慣れ始めた頃、今度は従姉自身が事故に遭った。従姉は意識不明の重体となり、その間ずっと不思議な夢を見ていたという。
「夢の中で、すごく長い坂のある町でお姉さんと一緒に暮らしてたの。優しいお姉さんでね。死んじゃったお母さんを思い出して、できるならずっとここにいたいなぁ、なんて思ってたの」
夢の中での生活はほとんど現実と変わらなかったが、ただ食事をすることが全くなかったという。もっともお腹が減ることもなかったので従姉は特に気にすることもなかったそうだ。
「感覚で一ヵ月くらいかな。そこですごして、突然お姉さんがシャーベットを持ってきてくれたの。食べる? って聞いてきて、すごく美味しそうだったから、うんって答えて食べようとしたら」
お姉さんは突然能面のような表情になり、
「間違えた、お前じゃねぇわ」
と言って従姉が持っていたシャーベットを叩き落したという。次の瞬間、従姉は目を覚ました。
「目を覚ましてから、色々考えちゃってまたしばらく泣きっぱなしだったんだよね。お姉さんがいきなり別人みたいになっちゃったのもショックだったし、何よりもう会えないんだってことを実感しちゃって、後はシャーベット食べられなかったのも地味に悔しかった」
余程悔しかったのだろう、従姉はそれ以来腹いせとばかりにありとあらゆるシャーベットを食べ、今はブログにそれらの評価を書いているという。