三十三話 お題:美濃紙 縛り:四君子、歓呼、依拠
私の祖父の話である。祖父は骨董品集めが趣味で、骨董市が開かれると聞くと必ず出かけるほどなのだが、とある市で見かけた品に一目惚れしたという。
「蘭、竹、菊、梅の四君子が全て描かれた見事な絵でなぁ、きっと中国の名高い画家が描いたものだろうと思って値段を見ると信じられないほど安い。ここで買っておかなければ一生の損になると思ったよ」
本人からしてみれば安いのかもしれないが、実際は中型バイクが買える値段である。結局祖父は祖母から三時間ほど説教されてしばらく落ち込んでいたのだが、どこから噂を聞きつけたのか、ある高名な鑑定士が祖父が買った絵が非常に価値のある品物かもしれないので是非鑑定させてほしい、と言ってきたことで一気に元気を取り戻した。その時の祖父は歓呼しながらやれ見ろそれ見ろとあてつけのように祖母だけでなく父や母、私にまで散々自慢を繰り返すという大変迷惑な状態で、苦労して落ち着かせた後家族皆がどうか絵が偽物でありますように、と祈るほどだった。そして鑑定の当日になり、珍しく緊張した様子で祖父は鑑定士のところに出かけていった。夜遅くに祖父は帰宅し、祖母がどうだったんですかと聞くと、祖父は、
「よくわからなかったよ」
と答えた。なんでも鑑定士は鑑定を終えると、
「この作者の他の作品の鑑定結果に依拠するのであれば、これは贋作である」
と言ったそうだ。そもそもこの絵は中国の画家の絵が日本の美濃紙に描かれているというなんともお粗末な代物で、贋作にしてもあまりにも程度が低いものなのだという。祖父はそれを聞いて人生で一、二を争うほど落ち込んだらしいのだが、鑑定士がどうにも納得がいかないような表情をしていたので尋ねてみると、
「描かれている紙から判断すれば確かにこれは贋作なのだが、それ以外の全ての点に関しては真作と判断せざるをえない。正直なところ、私も困っている」
よりにもよって鑑定士からそんなことを言われてしまったため、祖父はとりあえず絵を持って引き上げてきたのだという。それから祖父は何度か他のところで絵を鑑定してもらったのだが決まって紙は偽物だがそれ以外は本物、という結果になってしまうため、扱いに困って押入れの奥にしまってしまった。