二百八十六話 お題:怖怖 縛り:純情、批判的、夜具、長径
従妹の話である。従妹の家には奇妙な夜具があるのだという。
「敷き布団と掛け布団と枕なんですけど、それで寝ると好きな人と両思いになれるらしくて」
寝るだけで好きな人と両思いになれるなんて夢のようじゃないか、と私が言うと、
「そうですか? 私はずるしてるみたいで嫌ですね。やっぱり恋愛は少しずつ仲よくなっていった方がいいじゃないですか。それに布団も枕も模様がなんか気持ち悪いんですよね。全体に楕円形がびっしり描いてあって、楕円の長径と短径が人の目みたいなバランスだから、たくさんの目に見られてるような気分になるんです」
このように従妹は夜具を使うことに対して批判的だったのだが、ある時同級生の男子を好きになってしまい、形振り構っていられなくなったという。
「本当に恐る恐る寝ましたね。なんか悪いことしてるみたいで落ち着かなかったです」
好きな男の子とは両思いになれたのか、と聞くと、
「はい、なれました。でも好きな人と両思いでい続けるためには布団と枕を毎日欠かさず手入れしないといけないみたいで……それがプレッシャーになって、別れちゃいました」
もう当分恋愛はいいですと言って落ち込む従妹を見て、私は思わずこの堅物で純情な従妹が幸せな恋に巡りあえますように、と祈ってしまった。




