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二十七話 お題:夢幻 縛り:黙々、引っ込み思案、能面

 昔仕事でとある死刑囚を取材した時のことである。無口な男で初めは黙っていたものの、次第に私の質問に答えてくれるようになったため、これで記事が書けると安心していたところ、不意に彼が、

「記者さん、後悔してることってあるかい」

 と尋ねてきた。もちろん数えきれないほどある、と私が答えると、彼は、

「俺にもあるんだ。あの時違うのを選んでれば、俺はこんな風になってなかったかもしれねぇんだよ」

 と言った。私が詳しく聞きたいと言うと彼は話し始めた。彼は子供の頃引っ込み思案で、クラスのいじめっ子によくいじめられていたという。現実で嫌な目に遭っているせいか夢も悪夢を見ることが多く、起きていても寝ていても辛い、と次第に追い詰められていったそうだ。

「とはいえ助けてくれるやつは誰もいなかったよ。先生も同級生も親も、誰も助けちゃくれなかった」

 いよいよ彼が自殺を考え始めた時、ある夢を見た。夢の中で彼は広い部屋にいた。蝋燭しか明かりのない板張りの部屋で、部屋の中央では知らない男が一人黙々と作業をしていた。

「そいつは能面を作ってたんだよ。子供だったから能面なんて般若しか知らなくて、ずいぶん色んな種類があるもんだって感心したのを今でも覚えてるよ」

 男、女、老人、鬼神、霊と男の側には様々な種類の能面が無造作に置かれていたという。不意に男が、どれがいい、と彼に尋ねた。

「いきなり聞かれたんでびっくりしたけど、その頃は弱い自分が大嫌いで仕方がなかったからさ」

 少しでも強そうなのがいいと、恐ろしい鬼の面を選んだのだという。そして選んだ面をかぶってみたところで彼は夢から覚めた。

「そこから先はあんたも知ってるんじゃないか? 殺して殺して殺すばっかり。たった一晩で気弱なガキが凶悪な殺人鬼に早変わりさ」

 私が何も言えず口をつぐんでいると、彼は、

「俺は本当に後悔してるんだよ。なんであの時鬼の面を選んじまったのかなぁって。今若でも、喝食でも、若男でも、いや、痩せ男だってここまでひどいことにはならなかったはずなんだ。へへ、どうだい、ここで能面のこと勉強したんだぜ、よく知ってるだろ?」

 その後彼に何を言ってもひきつったように笑うだけだったので、私は取材を切り上げてその場を後にした。記事はなんとかボツを食らうことなく、無事に掲載することができた。

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