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二百六十七話 お題:褐炭 縛り:思い悩む、心祝い、横死、微衷

 知人の男性の話である。最近彼が溜め息ばかりついているので、何かあったのかと聞いてみたところ、

「あぁ、この前弟が死んだんだけど、葬式の時にちょっとあってな」

 と彼は言った。なんでも彼の弟は旅行中に横死したそうで、葬式にはかなりの数の人が集まったのだが、

「弔問客の中にとんでもない男がいたんだよ。弟の顔の上で褐炭を砕いて、しかも汚れた手で弟の顔をベタベタ触ったんだ」

 彼は思わずその男の胸倉を掴み、一体なんの真似だ! と怒鳴りつけたそうなのだが、男は悪びれもせずに、

「いやぁ、ただの心祝いですよ。だってこいつが死んだの、めでたいじゃないですか」

 と言った。彼はふざけたことを言うな! と再度男を怒鳴りつけたが、男はヘラヘラと笑って、

「嫌だなぁ。そんな怒らないでくださいよ。僕はただ自分の微衷を口に出しただけなんですから」

 と言うだけだった。彼は男の後ろ襟をつかんで葬式の会場から追い出そうとしたのだが、突然男は声の調子を変えて、

「おい、なんで俺がこんな真似したと思う? お前のせいだよ。全部お前のせいなんだよ。弟だけじゃねぇぞ。俺はお前とお前の身内全員憎んでるんだからな。お前、理由がわからねぇだろう? わからねぇに決まってる。絶対忘れてるよ。でもな、それがわからなきゃお前は一生何故俺に憎まれるかわからねぇままだ。お前の都合のいい脳みそがなんとか思い出してくれるまで、精々思い悩むといいさ」

 と言ったという。

「その男の言った通りなんだ。全くわからないんだよ。何故自分がそんなにも憎まれるのか、自分はそこまで憎まれることをしてしまったのか……全く、わからないんだ」

 私は、あまり思い詰めすぎるのはよくないぞ、と言って彼に新発売のチョコレートを差し出した。

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