二十三話 お題:深雪 縛り:踏み躙る、訳詞、デポ
女友達から聞いた話である。彼女は子供の頃雪遊びが好きだった。特に積もった雪のまだ足跡のついてないところを踏み躙るのが大好きだったという。当時彼女が住んでいたのはそれなりに雪の降る地域だったため、冬は思う存分雪を踏み躙ることができたのだが、ある日、知らない女の子に遊びを邪魔された。
「着物着てて変だなぁって思ったんだけど、もっと変なのはその子雪の上歩いても足跡つかないのよ。おまけに私がせっかくつけた足跡の上を歩いて元通りにしちゃうし。でもその時は怖いとか気味が悪いとかじゃなくて、どうして消しちゃうんだって思ってたなぁ」
彼女が雪に足跡をつける度に女の子はその上を歩いて足跡を消してしまう。こっそり遊んでいてもいつの間にか側にいるので、彼女はその女の子のことを大嫌いになったそうなのだが、ある時考えが変わった。
「その子に邪魔されてるって考えるんじゃなくて、その子が雪を元に戻してくれれば何度でも足跡がつけられるって考えになったのね。それからはもういつも一緒に遊んでたよ」
彼女が大きくなって雪遊びを卒業すると、女の子も姿を見せなくなったという。その後彼女は大学に進学し、そこである歌の訳詞を読んだ。古語で書かれた日本の歌を現代語に訳したもので、そこにどこまでも平らな雪原を作る、子供の姿をした雪の精のことが書かれていた。
「そうか、あの子はこれだったんだって思って。それで正体がわかったら、また雪に興味が出てきてね」
様々なウィンタースポーツを経て、今彼女は雪山に登っているという。ただデポの際辺りの雪をどれだけ踏み躙ってみても、もう誰も彼女の足跡を消しに来てはくれないそうだ。