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二百三十話 お題:上値 縛り:玉杯
親戚の男性の話である。彼は趣味で株をやっているのだが、ある時株式市場が上値を追ったことで思わぬ利益を得たという。
「こりゃあ祝杯を挙げなきゃと思って、息子からもらった有田焼のぐい飲みでとっておきの日本酒を飲むことにしたんだよ」
彼はそのぐい飲みのことを玉杯と呼んで大切に扱っていたそうなのだが、その時は流石に浮かれていたのか、ぐい飲みを食器棚から取り出そうとして落としてしまった。
「落とした瞬間血の気が引いたよ。でも」
何者かの手がぐい飲みを受け止めたのだという。手の主は、
「もっと気をつけて扱えよ」
と言いながら彼にぐい飲みを渡してきた。手の主の顔は全体がつぶれて血で真っ赤に染まっていた。
「通りがかっただけ、と思うことにしてるよ。流石にあんな人が家に居着いてたら耐えられない」
今のところ、彼は手の主と再会はしていないという。




