二百十四話 お題:自薦 縛り:ピラフ、早引け、単身、貧、朽ちる
貧困者を支援するボランティア団体の代表の女性から聞いた話である。
「結構前にうちに入った女の子が、ものすごいのよ」
なんでもその女の子は美人で、しかも極めて裕福なのだという。
「私なら絶対にあなた達のお役に立てます! っていう感じでとにかく自分を売り込んできてね。不安に思うところもあったんだけど若い女の子がそれだけ熱心に言ってくるならまずは様子を見ようかってことで入ってもらったの。そうしたらもう次から次へと問題を起こしてくれて」
その女の子はとにかくわがままで、団体でボランティア活動をしている時に勝手に早引けするのは当たり前、また活動中に少しでも気に入らないことがあればすぐに癇癪を起こし、更に支援対象である貧に苦しむ人達に対して高慢な態度を取ることもしょっちゅうだったそうだ。
「うちに相談に来た人に冷凍のピラフを凍ったまま出して餌だ、食え、って言ったりね……おまけにホームレスの人達のところに単身押しかけて散々悪口を言ったりもしてたらしいし、正直あそこまで行くと何かの病気じゃないかって思っちゃう」
そしてある時、決定的な出来事が起きたのだという。
「その子、ホームレスの人が亡くなってるのに何もしないで朽ちるに任せてきたって言ったの。流石に私も堪忍袋の緒が切れて、いい加減にしろ! お前は一体何を考えているんだ! って言ったら」
その女の子は、貧乏人が何人死のうが関係ないじゃないですか、あいつらは私のようなお金持ちに見下されるためだけに存在してるんです、それ以外の存在価値なんてないでしょう? と当たり前のように言ったという。
「……でもね、私、それだけのことを言われたのに、その子を追い出せなかったのよ」
一体どうしてですか、と私が聞くと、
「その子、団体だけじゃなく私達にもたくさんお金をくれるの。その子がくれたお金で、家のローンも子供の教育費もずいぶん払えたし……その子本当に、私達の役に立ったのよ」
私は彼女を責める気にはなれなかった。私が彼女の立場でも、きっと彼女と同じようにその女の子を追い出すことはしないだろうから。




