表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/302

百九十九話 お題:湯水 縛り:一般化、位牌、復啓、メディア、情味

 友人の女性の話である。彼女とはよく手紙をやり取りするのだが、先日来た手紙に父親の葬儀のことで悩んでいると書いてあったので、たまには電話で話してみようかと電話をかけたところ、

「電話をくれてありがとう。ちょうど誰かに話を聞いてほしいと思ってたところ」

 と彼女は言った。父親の葬儀のことについて聞いてみると、問題は葬儀自体ではなく、葬儀を取り仕切る彼女の母親にあるということだった。

「お母さんがお父さんのお葬式をとにかく豪華なものにしたいって言っててね。なんとかそれをやめさせたいんだけど」

 私はそれを聞いて意外に思った。彼女は手紙を書く時必ず拝啓や復啓、敬具といった頭語と結語を使う礼儀正しい人物で、亡くなった父親のために豪華な葬儀をあげることにはむしろ賛成しそうだったからだ。そのことを彼女に伝えると、

「ただ豪華なお葬式をあげるだけなら私も賛成したけど、お母さんはね、豪華なお葬式をあげることでお父さんへの恨みを晴らそうとしてるんだよ」

 一体それはどういうことだろう、と私が聞くと、

「お母さん、ずっとお父さんから暴力を振るわれてて。でもお父さんが生きてる間は怒ったりとか悲しんだりとか一切しなかったんだ。私、お母さんのことすごく打たれ強い人だと思ってたんだけど、本当は逆で、ひたすら自分の中に悪いものを、それこそおかしくなるまで溜め込んじゃう人だったんだよ。お父さんが亡くなってすぐに、お母さん、あの男の遺したものなんて全部いらないって言ってお父さんの遺品を片っ端から売り飛ばして、売れないものは全部捨てた。その上貯金はもちろん、私や私の兄妹を連帯保証人にしてすごい額の借金をして、そうやって作ったお金を全部お父さんのお葬式に使おうとしてる。お葬式、戒名、仏壇、位牌、お金をかけられるものには全てありったけのお金をかけて、お葬式が済んだら今住んでる家と土地を売り払ってお墓を建て直すんだって……お母さんにとっては、ずっと暮らしてきた家も、私達も、憎いお父さんが遺した、捨ててしまいたいものなんだよ」

 親戚や母親の知人に頼んで母親を止めてもらうことはできないのか、と私が聞くと、

「頼んではみたんだけどね。でも、頼んだ人皆からお母さんがお父さんのために豪華なお葬式をあげようとしてるのにそれを止めようだなんて情味がないにも程がある、って言われちゃって」

 確かに葬儀は安くてもいいという考えはまだまだ一般化しておらず、格安での葬儀を一部メディアが取り上げるくらいだ。とはいえこのまま行けば彼女の家族はそろって破滅である。こうなったらもう母親と縁を切るしかないだろう、と彼女に言ったところ

「うん、そうだよね。それが一番いいってわかってるんだけど……それでも私、お母さんを見捨てたくないんだ。お母さんが辛かった時、私何もしなかった。何もしなかったから、お母さんはおかしくなっちゃったんだよ。だからこそ、今側にいたい。何もできることがなくても、拒絶されるだけだとしても、それでもお母さんの側にいたいの」

 私はそこまで言うのならもう止めることはできない、と言って電話を切った。そして彼女からの手紙はぱったりと止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ