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十九話 お題:下々 縛り:譲り受ける、方図、ホワイトカラー、遊芸、赤飯

 知人の男性から聞いた話だ。その男性の両親はあまり評判のよろしくない宗教団体の幹部をしているのだが、彼自身は無関係な一ホワイトカラーである。ある日、彼は母親から宗教団体で祭っている神にお仕えする男覡おかんなぎ様を街に連れ出してほしいと頼まれた。彼が断わると母親は激昂し、男覡様が託宣を受けた結果お前が選ばれたのだから光栄に思うべきだ、どうしても断るならお前が今の会社にいられなくなるようにしてやる、と脅迫してきたため泣く泣く有休を取ってその男覡様とやらの相手をすることになったそうだ。

「本当に方図なく迷惑をかけてくるというか……時々殺してやりたくなりますよ」

 とはいえそんなことができるはずもなく、彼は大人しく指定された日時に男覡様を迎えに行った。待ち合わせ場所にいた男覡様は見た目は普通の少年で、性格も世間知らずではあるものの決して悪くはなかったという。元々子供好きな彼は、男覡様の普通の子供のように遊べない身の上に対する同情も手伝って、今この時くらいは楽しい思いをさせてあげようと思ったそうだ。とはいえ何が喜ぶのか見当もつかず、とりあえず伝統的な遊芸を一通り勧めてみたが反応が悪い。仕方ないので適当に街を歩いて手当たり次第に店に入ったところ大喜びしたそうだ。食事もあれこれ買ってみたがコンビニで買った赤飯のお握りが最も気に入ったらしく、道中で何個も買わされたという。そうしてあちこち連れ回しているうちに男覡様が帰る時間になった。男覡様は彼に、

「今日は世話になりました。市井の人の暮らしがこんなに楽しいものだとは知らなかった。お礼にこれをどうぞ。気に入らない人がいたらこれの音を聞かせて、後は好きなようになさってください」

 と金属の輪に四つの鈴がついたものをくれたという。彼はどういうことだろう、と思いつつその場を後にした。家に帰るとすぐに母親から電話があり、今日あったことを逐一報告させられたが男覡様からお礼の品をもらった、と言うと母親の態度が一変した。

「お前ごときが男覡様の持ち物を譲り受けるとはどういうことだ!」

 と彼の母親は理不尽に怒り狂い、彼の忍耐も流石に限界を迎えた。電話の送話口に向かって男覡様からもらった鈴を思い切り鳴らした後、

「金輪際俺に関わるな!」

 と怒鳴りつけたそうだ。その直後に、

「はい、仰る通りにいたします」

 自動応答のような母親の声が聞こえてきた。

「キレて無意識にやっちゃいましたけど、まさか本当に相手を好きなようにできるなんてねぇ……」

 彼はその鈴を、両親よりも嫌な人間が現れた時のためにきちんと保管しているという。


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