百九十七話 お題:映じる 縛り:下心、忘我、既報、弱視
男友達と話していると恋人のことを話し出したので、お前いつ恋人ができたんだ、と聞いたところ、
「いつっていっても既報の通りだが……あれ、もしかして俺話してなかったか」
と言って詳しいことを話し始めた。なんでも彼の恋人は大分変わっているのだという。
「画面を消したスマホって鏡みたいに周りのものが映り込むだろ。それである時なんとなくスマホの画面に映り込んだものを見てたら、彼女が映り込んでることに気づいたんだ」
なんと彼の恋人は画面に何も表示されていないスマホに姿を映す以外、見る方法がないのだそうだ。
「初めて彼女を見た時はもう忘我の境地というか……そのくらい俺の好みだったんだよ」
恐怖心を下心でねじ伏せた彼は、スマホの画面だけに映り込む彼女と意思疎通を図るべく思いつく限りのことを試したそうなのだが、全て失敗に終わった。
「姿を見るだけで話すことすらできないのかって思ったら流石に心が折れそうになったけど、よく考えたら人と意思疎通をしない以上浮気される心配もないってことなんだよな。そう思ったらちょっと気が楽になってさ」
彼は頭の中で彼女を勝手に自分の恋人にすると、彼女との同棲生活をスタートさせたのだという。
「プライベートが充実したせいか、前よりもずっとモテるようになってさ。結構言い寄られたりもするけど、全くお呼びじゃないっていうかね。皆俺の彼女の足元にも及ばないんだもんなぁ」
私が彼に、一応確認しておくが幻覚ということはないのか、と聞くと、
「はぁ? まぁ確かに俺は弱視だけどさぁ。でもその言い方はないだろう。スマホの画面にしか映らないとはいえ、彼女の姿ははっきり見えるんだから。もう二度とそんなこと言うなよ」
彼は怒りを隠そうともせずにそう言った。まぁ、彼が幸せならそれはそれでいいのかもしれない。