百七十一話 お題:巧技 縛り:ストック、栓、ポプリン、溶液、鉄条網
長いつきあいのファッションデザイナー仲間とワインを飲んだ時のことである。彼は、
「今日は君のために特別なワインを用意した」
と言っていかにも高価そうなワインを出してきてくれたのだが、私は彼がどうしてそんなワインを出してくれるのか全くわからなかった。一体どうしたんだい、と聞くと、彼はワインの栓を抜きながら、
「このワインは特別なものの中でも更に特別なんだ。どのくらい特別かというと、このワインの葡萄の畑は鉄条網で覆われているし、醸造所には警備のために銃を持ったガードマンがいる、というくらい特別なんだ。今日出すワインはこれでなくてはならなかったんだ。私が普段ストックしているワインではとてもとても……」
そう言って彼はワインを私のグラスに注いだ。私は彼に、私が来る前から飲んでいたのか? と聞いた。すると、
「君がこの間発表した新作のスカート。実にいいじゃないか。素晴らしい。でもな、あれは私のものだ。ポプリンを特殊な溶液につけて独特の風合いを出す――全て私のアイデアじゃないか。デザインも! 生地も! 溶液の配合も! 風合いも! 何もかも! 全て私のアイデアだ! 君、よくも盗んだな。全く大した泥棒の技術だ。このワインはな、殺すと決めたやつに手向けのつもりで飲ませてやるんだよ。さぁ、飲め! この味を知らずに死ぬなんて生まれてきた意味がないぞ、飲め!」
彼は私に無理矢理ワインを飲ませると、準備が整い次第お前を殺してやるからな! と言い放った。早急に、早急に手を打たなければならない。無論、彼を殺害することも想定して。