百七十話 お題:まどろむ 縛り:旧弊
男友達から聞いた話である。彼の家は歴史ある名家というやつで、守らなければならない様々なしきたりがあり、彼はそれらに大層うんざりしていたという。
「中でも一番意味がわからないのが家の男は二十歳をすぎたら昼間絶対にうたた寝をしちゃいけないってやつでさ。理由を聞いてもとにかく寝てはなりませんの一点張りなんだよ。そんなしきたり破りたくなるに決まってるだろう」
彼は二十歳になったらすぐにでも昼間うたた寝をしてやろうと思い、二十歳の誕生日にそれを実行した。
「誕生日だったんだけどその日は朝から大学のレポートを書いててさ。昼飯食ってちょうど眠くなったから、椅子にもたれてうとうとしてたんだよ。そしたら」
彼は強烈な首の痛みで目を覚ましたという。目の前にあるパソコンのモニターを見ると、自分の頭を掴んで捻っていた二本の腕がすうっと消えていくところが映り込んでいた。
「まぁそれ以来一度も昼間にうたた寝はしてないよ。旧弊な人間になるのは嫌だけど、理由がちゃんとあるなら別にしきたりを守ったっていいしな」
とはいえ昼寝できないのはやっぱり辛いけど、と言って彼は大きな欠伸を一つした。