十六話 お題:カード 縛り:なし
友人の父親の話である。友人の父親はサラリーマンなのだが、トランプのカードを引く時、本来存在しないはずのカードを引いてこれるという特技を持っている。14、15、16、飛んで100、1000、10000、果ては負の数まで自由自在だという。あまりにも自然に引いてくるので友人はずっと父親のことを、サラリーマンは仮の姿で実は凄腕のマジシャンなのだろうと思っていたそうだ。
「親父に何度タネを聞いてもそんなのない、としか言わなくてさ、しょうがないから自分で暴いてやろうと思って」
驚くことに友人は本当にマジシャンになってしまった。インターネットを使ったり時にはアメリカまで行って自分の考えたマジックのタネを販売しているのだが、それでも、
「わからないんだよなあ、もう何度も何度も見せてもらってるのに全くわからない」
友人が子供の頃冗談で、本当にタネがないんだったら研究所で研究とかされたりしないの、と言ったところ、父親は真顔で、
「いや、行ったよ一度。それで色々やらされたけど結局、あなたのそれは解明してはならないことがわかりましたのでどうぞお引き取りください、とか言われて帰らされたんだ。あれは腹が立ったなぁ」
と言ったそうだ。
「いつか絶対にタネを暴いてやるとは思ってるんだよ、思ってるんだけど、本当にタネがないんじゃないか、って気持ちが段々強くなってきててさ」
なお友人の父親の特技は、勤務先の飲み会でいつも大好評だという。