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十五話 お題:とんとん拍子 縛り:付き人、百人力、外商、見習う

 幼馴染に落語家になった男がいる。才能はあるようなのだがいつまでも鳴かず飛ばずで、何度か金を貸したこともある。無駄に律儀な男で踏み倒されたことは一度もなく、そのため応援もしていたのだが、ある時を境に急に羽振りがよくなった。なんでも付き人が付いてから万事が上手くいくようになったのだそうだ。

「どんな人なんだ、その付き人さんは」

「いやぁ、あいつは本当に俺にとっての福の神だね」

 酒が入って元々回る口を更に勢いよく回転させて、幼馴染はその付き人のことを語り始めた。どんな仕事をやらせても素早く丁寧に片づけてしまう、師匠連中が自分の付き人達に俺の付き人の仕事ぶりを見習うようにと説教していた、どんな場面でも必ず俺の顔を立てることを忘れない、等々こいつはこんなに人のことを褒めるやつだったかと思うほど、付き人への賛辞が後から後から吐き出された。

「お前がそこまで言うとは、よほど大した人なんだろうな」

 今や幼馴染は芸能人の奥さんをもらい、家まで百貨店の外商が出向いてくるほどの暮らしぶりだという。その成功が付き人の活躍によって得られたものならば褒めちぎるのも無理はない、と思っていると、

「今までこいつがいれば百人力だ、なんて本気で思った男はいなかったが、あいつと出会ってやっとわかったよ、これが百人力ってやつなんだってね」

 ふと、奇妙に思った。

「ところでお前、さっきからその付き人さんのことをあいつ、としか呼んでないけど、一体なんて名前なんだい」

「え、知らないよ」

 幼馴染は信じられないことを言った。

「知らないってお前、それだけよく働いてくれる人の名前をなんで知らないんだ、今まで何をしていたとか、どこの出身だとかそういうのは」

「知らないなぁ」

「知らないなぁ、じゃなくてどうして聞かないんだ、聞けば教えてくれるだろうに」

「いや、聞こうとしたよ、聞こうとしたんだけれども、そうするとあいつニコニコ笑うんだよ、そうするとなんだか、あぁ、今でなくてもいいかあっていう気持ちになってさ、つい聞きそびれちまうんだ、それでずるずるここまで来ちまったわけで……」

 その後何度付き人の名前を尋ねても、幼馴染は、

「聞けなかった」

 としか言わなかった。

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