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百五十四話 お題:逆剥け 縛り:客分、証券
知人の男性の話である。彼の家は代々裕福で、今も所有している不動産や証券によって大きな利益を得ているのだが、ある時客分として彼の家に招かれた際、彼の手の指が逆剥けだらけなのに気づいた。指はいつもそんな状態なんですか、と聞いてみたところ、彼は、
「えぇ、まぁ、はい。実は事情がありまして」
と言って手の指を逆剥けだらけにしておく理由を話してくれた。なんでも彼の家ではとある神を祭っているのだが、その神は毎日供物として家の当主の体の一部を求めるのだという。
「一部と言ってもこれはもう本当に一部で、髪の毛一本ですとか、足の爪の白い部分を一かけらですとか、全く大したことはないんですが、ただですね、例えば手の指の逆剥けの皮を求められてそれを捧げられない場合、怒りを鎮めるのが非常に難儀と言いますか、場合によっては家が傾きかねない損害が出てしまいますので、こうして常に求めに応じられるようにしているわけです」
彼の話を聞いて金持ちは金持ちなりに大変なのだと知った私は、それから金持ちをみだりに羨むことをしなくなった。