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百三十五話　お題：天誅　縛り：なし

　同僚から聞いた話である。彼は小学生の時に恐ろしい体験をしたのだという。

「俺その頃いじめっ子でさ。気にいらないやつがいたら仲間と一緒にいじめてたんだよ」

　それが起きた時、彼は仲間達と一緒に同級生を小学校の校庭でいじめていたという。

「天誅っていう言葉を使うのが仲間内で流行っててさ。いじめながら天誅を下す！　とか、これは天誅だ！　とか言ってたんだよ。そしたら」

　一人の男性がいつの間にか彼の側に立っていたという。外見はスーツを着たいかにも真面目そうな感じで、手には頑丈そうな書類鞄を持っていた。男性は書類鞄を開け、中から包丁を取り出すと、その刃を彼の頬にあててこう言った。

「君は悪い子だよね？　天誅を下していいかな？　僕は君に天誅を下してもいいかな？」

　彼は恐怖で尻もちをつき、泣きながらごめんなさい、ごめんなさいとその男性に繰り返し謝った。男性は彼の様子を見ると、包丁をしまい、顔を悔しそうに歪めながら、

「なんだ、いい子じゃないか、これじゃあ天誅を下せないじゃないか、畜生め」

　と言ってその場から立ち去ったという。

「それから二度といじめはしなくなったよ」

　この話をしている間、彼の声はずっと、かすかに震えていた。