百三十三話 お題:ビデオカセット 縛り:近景、虞、炒める、抜き手、天性
大学でできた女友達の話である。彼女は最近不気味なビデオを見たのだという。
「高校の時の後輩からいきなり助けてくださいって連絡が来てね。何があったのって聞いたら、家の大掃除をしてる時にラベルも何も貼ってないビデオカセットが出てきて、それの中の映像が怖くて一人だと最後まで見れないから一緒に見てほしいってことだったの。私はホラー映画とか平気な方だから、いいよって言って休みの日にその子の家に行ったんだけど」
早速ビデオを見てみると、内容は彼女が想像していたのとは異なり、一人の女性の生活をずっと撮影し続けたものだった。
「基本遠くからズームで撮影してたから、多分盗撮だと思う。盗撮してることがばれちゃう虞があるからなのか、時々不自然に近景を撮ったりしてて、悪い意味で生々しい感じだった」
映像の最初の方は女性が台所で何かを炒めるところや、海に入って抜き手といわれる日本泳法で泳ぐところなど元気な場面が多かったのだが、次第に女性が苦しんだり寝込む場面が増えていき、ついには女性が死亡して、その死体が放置されている場面になった。
「後輩はそこで見られなくなったみたいなんだけど、すごいのはそこからだったの」
テレビの画面の中で女性の死体はどんどん腐っていき、やがて白骨になったという。後輩は映像の途中でトイレに駆け込み戻ってこなかったが、彼女はそのビデオを最後まで見続けたそうだ。
「もし映像が偽物だったとしても、撮影した人の女性に対する執着心は絶対に本物だと思う。そうじゃなきゃあんな映像は絶対に撮れない。きっとこれ言っちゃいけないことだけど……私、結構感動しちゃったの」
そのような映像を見て感動できる彼女の感性は、きっと天性のものなのだろう。これからはもっと距離を置いてつきあうことにしようと私は思った。