百二十八話 お題:編者 縛り:枝肉、副収入、贅
知り合いの編集者から聞いた話である。彼は元々文芸雑誌の編集をしたかったのだが、任されたのはグルメ雑誌だった。最初はやる気が起きなかったものの次第に仕事の面白さに目覚めていき、今ではグルメ雑誌の編集をやらせてもらってよかった、と思えるまでになったという。
「それまでは料理なんて食べられればいいやって程度の認識だったんだけど、仕事で色んな店の色んな料理を食べて、料理がどれだけ奥が深い世界かってことを知ったんだよ」
彼は何人もの有名なシェフからその仕事ぶりと人柄のよさを認められているのだが、ある日親交のあるシェフの一人から新作の料理の発表会に招待された。
「本当に贅を尽くしたって言葉がぴったりの料理ばかりで圧倒されてたんだけど、その中に特に気になる料理が一つあってね」
それは何かの動物の枝肉をそのまま調理したのではないか、と思われるほど巨大な肉料理で、これまで様々な動物の肉を食べてきた彼ですら驚いてしまうような素晴らしい味だったという。
「後で何の肉を使った料理か聞こうと思ってたら、シェフが大慌てで会場に来てさ」
シェフは絶対にお出ししてはならない料理を出してしまった、謝罪のしようもないがどうか許してもらいたい、と言って発表会に来た客一人一人に謝って回り、更に慰謝料までくれたという。
「そこまでされると逆によっぽどとんでもないものだったのかと思っちゃうけど、大事にしたらしたで厄介だからさ。結局それでおしまいになったよ。まぁ料理の味自体は最高だったし、思わぬ副収入も入ったしね」
私が冗談で人間の肉の料理だったのではないか、と言うと、
「いや、人間の肉はあんな美味しくないって。人間の肉はもっとこう――」
そこまで言ってから、彼はしまった、という顔をした。