百二十二話 お題:実戦 縛り:遺風、雑本、目
友人の話である。彼は自衛隊から海外の民間軍事会社へ行き、何度となく実戦に参加してきたという壮絶な経歴の持ち主なのだが、どうしてそんな生き方を選んだのかと聞くと、
「俺の実家は室町時代まで遡れる武士の家でさ、男子は必ず戦場に出て武勲を上げるべしっていう遺風が未だに残ってるんだよ。時代錯誤も甚だしいけどな」
いくら代々受け継がれてきたこととはいえ、今の時代わざわざ戦場に行かなくてもいいのではないか、と私が言うと、
「……俺もそう思うよ。でも駄目なんだ。これを見てくれよ」
そう言って彼は私に一冊の本を投げてよこした。見たところボロボロの雑本といった印象で、一体何の関係があるのかと思ったが、表紙をよく見たところ異常に気づいた。表紙の文字が全て、大小様々な大きさの人間の目になっていたのだ。思わず本を取り落とすと、
「俺の実家に生まれた男には必ずそいつらがついて回るんだよ。今は本にくっついてるけど身の回りのものならなんだっていいんだ。そいつらがついてる限り戦場での華々しい死が約束される。そしてもし戦いから離れた生活を送ろうとしたら」
一体どうなるんだ、と聞くと、
「……やっぱり言うのやめておこう。お前が飯食えなくなったらまずいしな」
少なくとも、戦場で殺されるより遥かに悲惨な死が訪れることはわかった。