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百十八話 お題:謹んで 縛り:ビーフ、胃液、朧ろ月、効く、餌

 悪友から聞いた話である。彼は非常に金遣いが荒く、食べるものにも困ることが度々あったという。その時も彼は空腹の上手持ちの金がなく、こうなったら捕まるのを覚悟で食い逃げをするしかない、と目についたレストランに入ったそうだ。レストランの中は落ち着いた洋食屋といった雰囲気で、ウェイターは彼を席まで案内した後、

「お客様、失礼ですが食い逃げをなさるおつもりでは?」

 といきなり聞いてきたという。彼が冷静であればしらを切るなり怒るなりできたはずなのだが、空腹で朦朧としていた彼は、

「どうしてわかったんですか!?」

 と正直に食い逃げをしようと思っていたことを認めてしまった。ウェイターはそれを聞いても特に態度を崩さず、淡々と彼に言った。

「もしよろしければ当店の新作メニューを試食していただくというのはいかがでしょう。もちろんお代はいただきません。その代わり料理に対して文句は言わない、という条件ですが」

 彼は迷わずそれに飛びついた。どんな料理が出てくるのだろうと彼は若干不安に思っていたのだが、ウェイターが運んできたのは美味しそうなハンバーグだった。ウェイターは彼に、

「ビーフ100%のハンバーグです。独自のルートで仕入れた特別な牛肉を使用しています」

 と説明した。食べてみるとハンバーグは信じられないほど美味しく、空腹も手伝って気がついた時にはなくなっていたという。ウェイターが空いた皿を下げに来た際、彼が、

「このハンバーグすごいですね!」

 と言うと、ウェイターは、

「肉質の向上に劇的に効く特別な薬を牛の餌に混ぜているそうです。ただ、その薬には副作用がありまして」

 彼が慌てて、

「どんな副作用なんですか!?」

 と聞くと、

「それは――食い逃げをしようとした罰、ということでご説明いたしません。そもそも料理に対して文句は言わない、という条件でしたからね」

 彼は副作用のことが気にはなったものの、きっとウェイターが脅かしているだけだろうと強引に自分を納得させ、店を出た。空を見上げると綺麗な朧ろ月が浮かんでおり、すっかり腹が膨れたこともあって彼はいい気分で家に帰ったという。それからしばらくして、彼の体調に変化が起きた。

「突然血を吐くようになってさ。医者で調べてもらったら胃の粘膜が普通じゃありえないほど少なくなってるって。このままだと胃液で胃が穴だらけになるって言われたんだ。これ……あのハンバーグの副作用かな?」

 私がそうかもしれないな、と言うと、彼は、

「畜生! こんなことになるんだったら別の店で食い逃げをすればよかった!」

 と悔しそうに叫んだ。この期に及んでまだ反省はしていないようである。

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