百十七話 お題:軍手 縛り:経済産業省、腰張り、援護、万両
知り合いから聞いた話である。彼は経済産業省に入省したほどのエリートなのだが、激務に耐えられず退職した。彼が再就職もせずぶらぶらしていると、大学時代の友人からサバイバルゲームの誘いがあった。
「学生の頃は散々やってたけど、働き始めてからはやる暇なんて全くなかったからさ。久しぶりに行ってみるかって思って、装備一式引っ張り出して参加したんだよ」
参加してみると学生の頃と比べて体力も落ち、勘も鈍っていたため苦戦したそうだが、それでも味方の援護のおかげもあって敵チームの中で一番強い参加者を倒すなど活躍することができた。
「本当に楽しかったんだけど、俺が倒した敵チームで一番強い人がなんか変でさ。普通サバイバルゲームやるんだったら専用のグローブを用意するのに、その人だけ軍手してて。しかもゲームが終わったあと挨拶しても返事もしないし。その時は強いぶん変わってるのかなとしか思わなかったんだけど」
サバイバルゲームが終わったあとはフィールドの近くの旅館で一泊することになっていた。旅館に到着すると彼はチームの人達と温泉に入り、食事をし、酒を飲みながらサバイバルゲームの感想を語り合って大変楽しい時間をすごしたそうなのだが、
「酒飲みながら、あの軍手してた人強いけど態度悪かったんですよねぇ、まぁ強いって言っても俺勝っちゃいましたけど、みたいなことを言ったんだよ。そしたら」
ブズリという鈍い音がした。音のした方を見ると、部屋の入り口の襖の、万両の木の絵が描かれた腰張りを貫いて、軍手をはめた指が十本飛び出していた。
「すぐに指は引っ込んだけど、仲居さんが来てくれるまで怖くて誰も襖開けられなかったな。事情は説明したんだけど、犯人らしいやつを見たって人は誰もいなくてさ」
以来、彼はどんな些細な勝負事であっても、負けた人を馬鹿にするようなことは言わなくなったという。