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百十五話 お題:とば口 縛り:カクテル、人魚、全うする

 馴染みのバーでカクテルを飲んでいた時のことである。その時私は何杯もカクテルを飲んですっかりできあがっており、マスターに何か面白い話でもしてくださいよ、と絡んでいた。マスターは嫌な顔一つせず、

「そういえば最近、人魚と結婚していたっていうお客さんがよく来られますよ」

 と私に言った。詳しいことが聞きたいと私が言うと、マスターは話し始めた。

「そのお客さんはとある島の出身で、島に人魚の伝承があったそうなんですよ。別に信じてはいなかったらしいんですが、ある時島の岩場を散歩してたら人魚に出会って、それから仲良くなって結婚したとか」

 私が笑いながら家族や友達にはなんて言ったんでしょうね、とマスターに言うと、

「なんでもその島では人と人魚の結婚は昔からまれにあったそうで、意外とすんなり受け入れられたらしいですよ。ただ人間と結婚したことが負担になったのか、その人魚は何年かして死んでしまったらしいです」

 マスターの話を聞いて私が、

「その人魚も一人で天寿を全うするよりは短い人生でも好きな男と一緒に暮らしたほうが幸せだったでしょう。まぁ半分魚の女と結婚する男の気持ちは私にはわかりませんけどね」

 と笑いながら言うと、マスターがバーの入り口を見て、あ、と声を上げた。連られて私もバーの入り口を見た。そこには恐ろしい形相の男性が立っていた。この男性がマスターが話していた客か、と悟った直後、男性は私に恐ろしい速さで駆け寄り、胸倉を掴むと勢いのままバーの壁に私を叩きつけた。衝撃で息ができなくなっている私の首を、男性は両手で思い切り締めてきた。マスターがどうにか男性を引き剥がしてくれなかったら、私の命はなかったと思う。男性は引き剥がされると途端に大人しくなり、マスターは警察を呼ぼうとしたが、私はマスターによしましょう、と言った。私に駆け寄ってきた時の男性の形相と、私の首を絞めている時の、

「笑うな……笑うな……愛していたんだ……本当に、本当に愛していたんだ……」

 という呟きで、明らかに私の方が悪かったと理解したからだ。私は息を整え、彼に酔っていたとはいえ本当に申し訳なかった、どうか許してほしいと頭を下げると、会計を済ませてバーから立ち去った。

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