百十三話 お題:思い切る 縛り:劇団、気配、ホイル、回航、航海
友人から聞いた話である。彼は学生の頃劇団に所属して演劇をやっていたのだが、そこの大道具の担当の男性が以前は船員として船に乗り、あちこちを航海していたという変わった経歴の持ち主だったそうだ。
「話をした時にどうして船員をやめちゃったんですかって軽い感じで聞いたんだけど、それがとんでもなく重い話でさ」
その男性いわく、本当はやめたくなかったのだという。
「海も好きで、船も好きで、それこそ世界中を回航した。でも乗れなくなってしまった。あの海賊どものせいで」
なんでも男性が仕事で海賊が出没する危険な海域を航海していた際に、海賊の襲撃を受けたのだという。
「今まで感じたことのない嫌な気配がした直後だったよ。多分虫の知らせってやつだったんだろうな。船の中にいた人間は俺も含めて全員捕まってやつらの船に乗せられた。そこで、そこで、俺以外、俺以外の全員が生きたまま丸焼きにされたんだ……」
海賊に捕まった人達は魚をホイルで包んで焼くように、大きなシートのようなもので全身を包まれて、焼却炉で次々に焼かれていったという。
「俺の番が来た時に、ちょうどその海域をパトロールしてた軍の船が助けに来てくれたんだ。おかげで命は助かったけど、船に乗るとどうしてもあの時の、人が生きたまま焼かれる時の悲鳴が、焼却炉の中から聞こえる悲鳴が蘇って……」
海賊の船からは、焼き殺した人間の肉を食べていた形跡が見つかったそうだ。