百八話 お題:山気 縛り:拝す、対抗馬、有線放送
競馬好きの友人から聞いた話である。彼はこれまで様々な競馬の予想法を試してことごとく失敗してきたが、ついに本当に当たる予想法を見つけたという。なんでもその予想法はとあるバーの有線放送を利用するのだそうだ。
「地図があっても中々入り口が見つけられないようなバーなんだがな。そこの有線放送に、馬の名前を読み上げる声がノイズみたいに入ることがあるんだよ。名前を読み上げられた馬は確実にレースで勝つ。だからそのことを知ってるやつらはバーのマスターに金払ってICレコーダー置かせてもらって、馬の名前が読み上げられるのをひたすら待つのさ」
本当にそれは当たるのか、と聞くと、
「俺も最初は信じてなかったよ。でも教えてくれたやつが馬券代持つからって言うんで試してみることにしたんだ。その時に名前を読み上げられたのは本命馬でなく対抗馬でよ。対抗馬は今完全に調子を崩してるからとても勝てないだろう、っていうのが俺の予想だった。ところがレースが始まってみたら」
本命馬がいきなり転倒したのだという。対抗馬はとても調子を崩しているとは思えない走りで危なげなく一着になった。
「それ以来俺もバーにICレコーダー置かせてもらって、連戦連勝よ。よくバーの有線放送の機械を拝すやつを見かけるけど、気持ちがわかるようになっちまったなぁ」
彼は競馬で得られる金は圧倒的に増えたが、その分楽しさが減ったように思えて悩んでいるという。全く贅沢な悩みである。