百五話 お題:バターピーナッツ 縛り:稚児、学名
友人から聞いた話である。彼は子供の頃から昆虫が大好きで、いつか新種の昆虫を発見して学名を命名するという夢を叶えるため日々勉強しているのだが、ある時思いもよらない場所で新種と思われる幼虫を見かけたのだという。
「稚児の行列っていうのかな。家の側の通りをたくさんの小さな子達が化粧して着物着て歩いてたんだけど、男の子が一人列から離れて何かしてるみたいだったから、ちょっと気になって見てみたんだよ。そしたら」
男の子は着物のたもとから、彼がこれまでに一度も見たことがない幼虫を何匹も取り出すと、それを握りつぶし、手についた体液をペロペロと舐め始めた。
「幼虫の大きさはバターピーナッツくらいだったかな。もしあの幼虫が育ったら一体どうなるのか、気になって仕方なかったのに男の子はよりにもよってそれを握りつぶしてしまったんだ。怒りが限界を超えると視界が暗くなるんだってその時初めて知ったよ」
男の子は幼虫の体液を舐め終わると、すぐに列に戻ってしまった。彼は怒りのために反応が遅れ、男の子を見失ってしまった。
「幼虫を夢中で見てて男の子の見た目をちゃんと見てなかったからね。本当に、本当に惜しいことをしたよ」
彼はいつかまた男の子が幼虫をつぶしているところに出くわすかもしれないと、家の側の通りを頻繁に歩くようになったという。