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教室に入ると、女子のグループ派閥は既に形成されていた。全くみんなよくやるもんだと思う。どこかでうらやましい気持ちもあるがそれを認めたら負けの気がする。名簿順の座席に座る。わざわざおしゃべりに興じる相手もいないので鞄の中から本を取り出す。最近お気に入りの作家。某畑で捕まえるのか捕まえられるのかどっちやねんな作品が有名な外国人作家の影響を大きく受けている。その上でこの作家は頭が良いのだと思う。十年前に書かれた作品だとは思えないのだ。あとで発刊年月日を見て、ああそういえば、みんな家電使ってたなということに気付くのだ。思春期の普遍性というものを分かっている上で全く古びない独特の文章。なぜ世間で評価されていないのか全く理解できない。
文庫本を広げたところで声が降ってきた。
「この状況で本読み出すとか馴染む気なさすぎて笑える」
ソプラノの綺麗な声だった。顔を上げると、汚ない顔だった。いや、失礼。私も他人の顔をとやかく言えるレベルではないのだが、彼女の顔立ちは決して悪くないのに、メイクがアートの世界なのだ。常人には理解しがたい。髪もパサパサの茶色である。ギャルというには何かが惜しい気もするが、ギャルなのだろう。彼女は濃すぎるアイメイクに縁取られた目を細めて笑顔で言った。
「私、萩野めぐみ。めぐみって呼んで。よろしく」
私も目を細めて疑いながら言った。
「とりあえずよろしく、萩野さん」
それでも彼女は晴れやかに「あは」と笑った。それはまるで春の空のように澄んでいた。ただし、顔は様々な色で濁っていたが。