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体育館から教室へと出来立てほやほやのフレンドや中学からのフレンドを確保した人々の群れの中を一人で歩く。彼らは笑顔でお互いの情報を交換しあっている。一年生には三階の教室が宛がわれた。階段を慣れないスリッパでぺたぺたと歩く。ネズミ色の囚人のようなスリッパ。ここは牢獄なのだろうか。それにしてはみんな晴れやかな顔をしている。
その時、「俺、サボるわ」という声が聞こえた。なんとこのような高校にいきなりサボタージュを敢行する勇者が現れようとは驚いた。学年トップの顔には興味はないがこちらには興味がある。顔をそちらに向けた。背の高い細身の男の子だった。細身ながらも筋肉質なことがうかがえる。髪は烏のように真っ黒。決してイケメンではないが、男らしい顔つきである。これが世間で噂の雰囲気イケメンというやつか。あまりじろじろと眺めていたからだろうか、階段を降りてきた彼とその時、目が合った。咄嗟に目を反らそうと思ったが間に合わなかった。そう。私はいつだって、間が悪い。何もかも後になってから気付くのだ。
漆黒の瞳。何かに反抗するようなふてぶてしさを浮かべたその目と合った瞬間、身体の中でドクリという音がした。彼も私も目を反らさない。生意気そうな口元にある黒子に気が付いてしまうほど見つめあってしまった私たちは、ただの一言も交わさずにすれ違っていった。




