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気になること

 夕闇が近くなり、大体の人は避難したのか、あまり人通りは多くなかった。小さな道具屋も焼けてしまったらしく、やはり、ここでのアイテム補強は期待出来そうにはない。仕方ない、このまま行くしかないか。

 街角の瓦礫の上に、マサトより少し年下らしい小さな人影が座っていた。さっき、見かけた――。肩上までの茶色の髪に、胸元に緑の飾り石の付いた茶色のケープを羽織り、オレンジを基調としたスカート姿。そう言えば、『レイナ』は七歳の設定だったなとふと思いだした。

「……レイナ?」

 そっと声をかけると、澄んだ緑の瞳がこちらを振り返って見つめた。

「あ、さっき火を消してくれた……」 

「うん。あの剣のことは助かったよ。ありがとう」

 そう礼を言うと、レイナは沈んだ表情で沈黙した。私は何か変なことを口にしただろうか?

「……止められなかった……」

 するとレイナがぽつりとつぶやく。それで落ち込んでいたらしい。

「そんなの、皆一緒だよ。レイナは止めたんだから」

 そう、私なんかよりもずっと大役を果たしたと思うのに。

「闇は……許せないのに」

「レイナ?」

 うつむくその姿に、名前を呼ぶと、ふと気が付いたように。

「どうして、私のこと、知ってたの? ……誰?」

「あ、そうだった……。小さいのに凄い土術法戦士がいるって話は師匠から聞いてたから……。水術法戦士のアイルって言います。初めまして」

 まさかゲームに出ていたから知ってたとは言えずに、私はとっさにガイのせいにして誤魔化した。最もゲームの中では少なくともガイはレイナの存在自体は知ってたみたいだったのだけれど。ガイからそれを聞いたことはなかった。

「そう、土術法戦士のレイナです」

 レイナは納得したのか改めて名乗った後、表情を引き締めた。

「あの剣を持ってた金髪の人と、知り合いなの?」

「アレストのこと? 知り合いって言うか……今日知り合ったんだけど。あの人、師匠の知り合いらしいから」

「……どうして……あんなことに」

 レイナの表情は硬く、悲痛な色を含んでいる。

「あー、剣のことは会った時気付いたんだけど……ごめんね、見事に歯が立たなかったよ」

 そう謝ると、レイナは首を横に振った。

「違うの。あの人、どうしてあんなモノを……」

「ああ、アレストも気にしてたみたいだよ、あの剣の出所を調べるって言ってた。でも……」

「でも?」

 レイナが微かに首を傾げた。

「アレスト、全然呪いとか気付いてなかったみたいだから、ちょっと心配かも」

「え、気付いてない……?」

 レイナの声に驚きが混ざった。

「ん? ああいうのって、普通、ある程度術法の修行しないと『視えない』ものなんでしょ? 私も最初は視えなかったし、アレストは剣士だから」

「そんな……」

 レイナはとまどうように、蒼白な顔で眉を寄せた。

「レイナは……もしかして、修行する前から視えてた?」 

 レイナ程の術法士なら、あり得るかも知れない。そう思って尋ねてみると、レイナは控えめにうなずいた。

「……うん」

「そっか……凄いや」

「『視える』人の方が少ないってことは知ってる。でも……」

 レイナは歯切れ悪くうつむく。

「何か、気になることがあるの?」

「あるけど……だけど今は……」

 レイナは迷うようにつぶやいて、言葉を止めた。

「――行かなきゃ」

 レイナはふいに顔を上げた。

「え?」

「あの剣と同じ力が未だ……続いてるのが『視える』の。だから、行かなきゃ」

 その声は凛とした決意に満ちていて、私は僅かに気圧された。

「レイナ」

 そこに、瓦礫の上に足音を響かせて現れたのはアレストだった。

「…………」

 気まずい沈黙が流れた後、アレストが決意した様子で口を開いた。

「俺の不手際で済まなかった。俺は、例の剣の出所を突き止める。出来ることがあるうちは死ねないからな。失敗はそれ以上の成果で挽回しよう」

 私がそれは良かったと内心ホッとしていると、レイナは考え込むようにうつむいた後。

「……だったら、私も行く」

「え?」

「また、今みたいになったら困るもの」

 非難を込めてそう言い放ったレイナに、アレストは言葉を詰まらせながら答えた。

「う……。――解った、頼む」

「…………」

 またしても耐え難い沈黙が降りる。レイナはアレストを睨むように見据え、アレストは身の置き所がないといった風で、目をそらしていた。

 レイナはアレストのことで、何か気になることがあるみたいだ。それが何かまでは解らないけれど。私は少し気になりながらも、先にこの空気を変えようと違う話を振った。

「所でレイナは、今日泊まる所は?」

「未だ決めてないわ」

 レイナは気が付いたように視線をこちらに向けて答える。

「じゃあ、村外れの煤けた教会なら、未だ空いてるけど、良ければ一緒に来ない?」

 そう誘ってみた。……半分不法侵入のような気もするけど、この際言ってられない。

「うん、そうする」

「じゃあ、行こうか。――あぁそうだ」

 不法侵入で少し気になった私は、アレストにひょいと近づいて訊いてみた。

「そういえば、あの教会、鍵かかってなかった?」

 ゲームではそうだった筈だ。するとアレストはちょっと『しまった』という顔をした後。

「……壊した」

「あ、……そう」

 本格的に不法侵入だったらしい。

「事態が事態だしな。俺から言っておく」

「ありがとう、じゃあよろしく」

 誰が教会を所持しているのかも知らないし、その辺りはアレストに任せることにした。


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