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ゲームの主役と出会う

 そして特に異変の情報もないまま、召喚されてから三ヶ月後。私達はついに北の地に向かうことになった。

「ありがとうございました。私達、一文なしだったのに、装備一式揃えてくれて」

 街門の外に広がる草原まで見送りに来てくれたガイに、軽く頭を下げる。

 媒体鉱石を練り込んだ剣に、肩当てや胸当てといった武器防具や、食料に水といった旅の装備一式は全てガイが用立ててくれたのだ。ちなみに武器防具は重さを控えた軽装備だ。

 水や火に関しては術法で何とかすることも出来るのだが、レベルが北の地攻略に必要な最低ラインの十であり、あまり回数が使えないので、控えるのにこしたことはない。

「気にするな、異世界の研究費だ。――ああ、ちょっと待て」

「え?」

 ふいに、一陣の風が私達の間を吹き抜けて行く。そしてガイが口を開いた。

「今なら、進行方向に二人程、俺の知り合いがいるな」

「解るんですか」

「『風読み』は得意でな。人はそれぞれ、纏う風の気配が違う。お前達も、この世界とは違う気配がする」

「へぇ……」

 それは知らなかった。

「で、だ。途中の村辺りに『アレスト』と言う金髪の尻尾髪に、青い瞳の旅人がいる筈だ」

 アレスト……! あのゲームの主人公だ。

「さらに北の地に近い平原地帯には『フィアレス』と言って、俺が以前助けた奴がいるな」

 続けて一緒に来ていたシフが、説明を足した。

「お前達二人の前に、師匠が拾って来た奴だ」

 フィアレスも主要人物だ……って言うか、ガイが助けた? 一体何があったんだろう。ゲームではその辺りのことは全く触れられていなかった。

「そっちは赤紫の髪をした珍しい剣士だ。そいつらに会ったらよろしく言っておいてくれ」

「解りました。行って来ます」

 ガイの言葉を受けて、私達は旅立った。

「出来れば、元の世界では三ヶ月経ってないことを願うけどね」

 そう、『三ヶ月修行した』って二秒位のテキスト扱いだと嬉しい……って、どうもゲームのクセが抜けない。ここは異世界……の筈。

「今考えたってしょーがねーだろ」

「まぁね、行こう。出来れば火の守護石に何かある前に」

 私の浮かれ口調がすっと消える。

「ああ。じゃねーとせっかく覚えた火の術法がろくすっぽ使えない羽目になるからなー」

 レックもその設定は覚えていた様子だ。守護石は、術法を使うための巨大な媒体。その存在抜きで術法を使える手練れはそうはいない――ってか、自分達には絶対無理だ。

 そして、これから向かう北の地方面には、街と村が一つずつあり、ここから近いのはコーリスの村。差し当たってはそこを目指すことになる。

「ゲームで見てた時は直ぐの場所だったけど、歩くと結構かかりそうだね」

「修行も兼ねて歩けって言われてもなー。面倒だけど仕方ないか」

 こうして、徒歩で二時間近くかけて、コーリスの村へと向かい、村の外れらしい場所まで来た。遠くに家並みのようなものと、道沿いに教会が建っているのが見える。

 辺りを見回していると、金髪の尻尾髪に、青い瞳とマント姿の、温厚で誠実そうな青年が道を歩いていた。年齢は二十歳過ぎ位だろうか。ガイよりは年下だろう。簡易式の胸当てを付けた旅人風の装束だが、後ろでひとくくりにした金髪の尻尾髪。もしかして……?

「あの人、まさかアレスト?」

「かもな……」

 向こうより人口密度が低い分、ここは人探しには向いていると思う。

「でも、コーリスの村でアレスト……? 嫌な予感しかしないんだけど」

 そう、ゲームでは、主人公アレストと、『闇』との最初の戦場がコーリスの村だった。

「どうする? このまま知らん振りしてこの村に泊まると、下手すると、一緒に丸焦げになるかも」

 あのゲームの通りに展開するなら……だけど。

「話しかけてみる?」

「そーだな」

 私達がこそこそ話している間にも、アレストらしき人物はこっちに近づいて来ていて。

「!」

 間合いに入った瞬間、暗黒の、思念が弾けた。

「今の、感じた?」

 私が横を向いてそう確認すると、レックもうなずいた。

「あーバッチリ呪われてんな。あの剣か」

 嫌な予感大的中。

「これはちょっと気をつけないとなー」

 一応術法修行したお陰で、火、水、土、風、宇宙それぞれの術法の気配や、その基となる、光や闇の気配は解るようになったみたいだけど。呪い封じや解除まで覚えてる余裕はなかったから、発動すると手に負えない。出来ればここで発動しないで欲しい。そこで思い切って話しかけてみることにした。

「あのー、もしかしてあなた、アレスト?」

「なっ? 俺の正体を知ってるなんて、何者だ? いやそれより任務失敗は……死だ」

 相手は一瞬驚いた様子で私達の方を見ると、懐から短剣を取りだして自分の喉に向けた。

「わーっ! 待った! 私達、ガイ師匠の紹介で!」

 私はいきなりの展開に驚いて、慌てて短剣を持つ手に飛びつき止めながら弁解すると、相手は『師匠』という言葉を聞きとがめたようで、少し意外そうに手を止めた。

「何? お前達、ガイの弟子なのか? ……方針変えたのか」

「方針?」

 ガイは弟子を取らない方針だったのだろうか? 思わず聞き返すと、相手は首を振って、その話を打ち切ると、改めて私達の方を見た。

「いや。相変わらずあいつの風読みは凶悪だな……。確かに俺はアレストだし、お前達があいつの関係者なのは解った。お前達の持つ兄弟剣、塔で見た覚えがあるからな」

「あ、そうなんですか」

 思わず腰にある剣に視線を落とす。だったら何もいきなり自刃しようとしなくても。

「兄弟剣だったのか……」

 レックが大仰にため息をついた。何がそんなに不満なのか、失礼な奴だ。ちなみに私の方がやや大きめで、レックの方が小さめのつくりになっている。

「あの、それより……その腰にある剣、呪われてますよ」

「え?」

 思わずと言った様子で剣に手をかけるアレストを私は押し止める。

「待って、抜かないで下さい。私達じゃ手に負えないですから。出来ればその剣、使わないでくれると有り難いです」

 ちょっと情けないが、これ位しか言えない。

「本当に呪われてるのか?」

 アレストが少々意外そうに言う。

「ええ。私達初心者だし、いきなり信用しろって言うのは難しいと思いますけど」

「試すなら俺のいない所でやってくれよな」

「レック……」

 そこまで言って、自己紹介もしていないことに気が付いた。

「あ、私は水術法戦士のアイルで、こっちは火術法戦士のレックです。初めまして」

「そうか。俺は術法の方は詳しくないからな。取りあえず予備の剣を使うことにする。それでいいか?」

「はい、助かります」

 アレストは、剣を鞘ごと外すと、荷物の中にあった、予備の剣と交換した。

 その直後、道の脇から気配を感じて、私は思わずビクッと飛び上がりながら振り向いた。茂みの中から現れたのは、大型犬程の大きさで、闇色をした獣。一匹、二匹――囲まれた?

 だがアレストは慣れた様子で腰の剣を引き抜き、そのまま私達の前に出て剣を振るってモンスターを倒して行く。私達も剣を抜いたが、ほとんど何の役にも立っていない。敵は後から沸くように、木々の影から飛び出して来る。

「わっ」

 死角から火の帯びが走った。獣が使う闇の火炎ブレスだ。アレストは半身でブレスをかわしたが、その火炎ブレスがアレストが地面に置いていた、呪いの剣入りの荷物を直撃した!

「やばい、呪いが発動する!」

 レックの言う通りだった。

「荷物から離れて!」

 私はそう叫びながら、剣を握り締め直し、荷物の側へと駆け寄った。

「清き水よ、我がもとに集いて盾となれ! 水結界!」

 大気中から集めた光属性の水の壁が結界となって剣を押し包み、剣から吹き出す闇属性の火の圧力とぶつかり合った。水と火は触れ合うと互いに打ち消し合い、霧となり消えて行く。

 だが、水が火を押さえきれずに、結界が膨張する。足がズズッと土を抉って後退した。

 まずい! 

「くっ……押される……! ――伏せて!」

 大音響と共に水の壁が弾けた。私は破られた勢いに押される形で、地面に身を投げ出す。その頭上を広がる火が通り過ぎた。

そして、村が次々と火に包まれて行く。やはり自分では駄目だったのだろうか? 絶対的な力不足が悔しくて、私は歯を食いしばり――気付いた。

「……そうだ、レイナは? あの子なら」

 今は自分の劣等感に沈んだり、ネタバレだとか言っている場合じゃない。封印や浄化に長けた、土術法戦士のレイナなら止められる筈。

「――いた!」

 レックが指す方を見ると、幼い少女がアレストの方を凝視していた。

「どうして……。何で、あなたが!」

 レイナらしき人物は、心底信じられないと言った表情でアレストに詰め寄り、アレストは幼い少女に気を遣ったのか、今度はいきなり短剣を抜いたりはせず、とまどい気味に返す。

「え、俺? 君も俺のこと知ってるのか? 会ったことはない気がするが……」

「……」

 その沈黙にレックが割って入った。

「いーから、先にあの剣何とかしろって! あんたなら封印出来んだろ? 足りなきゃ術法力貸すから!」

「あ……。うん」

 その子は気を取り直すように、両手で、木が絡み合ったようなデザインの、大振りな杖を構えた。

「土よ、闇に連なる物をことごとく封印せよ!」

 地面が揺れ動き、呪いの媒体である剣を押し包む。剣は呑み込まれ……茶色く石化した。

「うわわ、凄い……。これがレイナの力」

 私は圧倒され、よろけながらも呆然とそれを見つめていると、アレストの声がした。

「アイル、火、消せないか?」

「そうだった! 水よ集え、我が声に応えよ、その力持って敵を消し去れ……!」

 私はハッと現状を思い出し再び剣を構えると、自分が今使える中で、最大級の水術法を発動した。全方位に向かう巨大な水音と同時に、周囲の広い範囲が白い水蒸気で包まれる。

「消えた……」

 アレストの言葉につられるように、私はつぶやいた。

「やった……」

 その時、一瞬目の前が暗くなる。

「あれ……?」

「アイル!」

 アレストの声が聞こえた気がしたが……そこで私の記憶は途切れた。


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