表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

師匠と違和感

 翌日レベルについて訊いてみると、ガイが『視れば』解るという話だった。

 そしてガイの見立てにより、私は水系、レックは火系の術法との相性が良いと判明し、術法戦士の修行を開始した。

 術法戦士とは、術法力を武器や体に込めることによって、攻撃力や防御力を底上げしての戦いかたが主流となる。術法だけでは、特に大技を使う際に時間がかかり、隙が大きすぎた。剣術だけでは、私達の体格や技術上、接近物理のみの戦い方は厳しい。術法戦士は、媒体鉱石を練り込んだ武器を補助的に使用し、術法力により、切れ味や属性を上乗せして物理と術法、両方のダメージを与えられる。物理と術法の連携により、より高い効果が狙えるのが特徴。勿論遠距離用の術法にも対応しているとのことだ。で、どうなったのかと言うと――。


 宮殿から塔を挟んで反対側に位置する、地面に塀と術法用結界を張り巡らせただけの殺風景な訓練場の中が、突如ぶわっと派手な火に包まれた。そこには当然私も巻き込まれている訳で、とっさに息を止めて腕で顔を庇った。

「あちちちっ……範囲広すぎ! 何度こっち焦がせば気が済む訳?」

 私が腕を勢いよくおろしてそう文句を付けると。

「そっちこそ集中力が切れて、頭から水ぶっかけてずぶ濡れにしただろーが!」

「じゃー代わってよ。ずぶ濡れの方が焦げるよりマシだって!」

 そこからは売り言葉に買い言葉で、ケンカしながら二人ともボロボロになり散々だった。まぁ、最初はこんなモノかも知れない。幸いと言うか、曲がりなりにも術法が使えそうなことにはホッとしたけれど。

 ガイは、実際に外で使うことを想定して、簡単な攻撃、補助、回復系の術法を、基本から教えてくれた。失敗しても決して責めずに、良い点だけを褒めて伸ばしてくれた。

 レックの方は、火相性のためか、より攻撃色が強く、回復術法が使えなかった。

 私は、どちらかと言えば、防御、補助系の術法の方がスムーズで、レック程、広範囲攻撃には向いていない。一応、回復術法が使えるのが救いか。

 剣も基本の動きだけは叩き込まれた。勿論修行は真面目に受けていたのだけれど、ガイは、剣も術法もやけに楽しそうに教えてくれたので、こっちも気楽で、嬉しかった。すったもんだしつつも、基礎体力向上を含めて修行は続き、十日ほど経ったある日のこと。

「ふぅ、これで終わりっと」

 基礎体力向上のために、階段ばかりの塔の掃除を終えて、顔を上げると、ガイとレックが夕暮れの日差しが差し込む窓際に佇んでいた。窓からは白い壁に明るい茶色の瓦屋根と、灰色の煉瓦で舗装された街並みが一望出来る。ガイはこちらに気付くと、少し遠い目をして口を開く。

「なぜ、お前達はここに来た?」

「え? 召喚されたからじゃあ……」

 首を傾けて私がそう返すと、ガイはゆるく首を横に振った。

「いや……いい。全てに意味を求めるのは未だはやいだろうからな」

 意味深にそう言って、塔の奥へと去って行った。

「何だぁ? さっきまでふつーの世間話してたのに」

「さあ? そう言えば師匠って、いつも楽しそうにしてるけど、私達のことあまり訊かないよね」

 そう疑問を投げると、レックもそれに気付いた様子だ。

「言われてみれば、そうかも」

「流石に全部がお見通しって訳でもないだろうし……私達の世界のこととか気にならないのかな。何か『見てるだけで十分』的なオーラを感じるんだけど」

「さーなぁ。ま、訊かれても説明すんの面倒だけどな」

「まぁね」

 レックと私は顔を見合わせたが、レックは直ぐに疲れた様子でその場に座り込んだ。

「あー今日も修行で疲れた」

「大丈夫? でも出歩くためには修行しないとね。これからも未だ先があるし」

 私がそう言うとレックが嫌そうに深く息をついた。

「余計疲れるようなこと言うなっての」

「あ、ごめん。まぁ、元の世界に戻れるまで、ちゃんと一緒に行くからさ」

 そう言って、軽くレックの肩を叩く。

「――ん?」

 今、レックの肩を叩いた時の、布の感触。……何かを思い出すような……?

「何だよ、急にぼんやりして」

「いや……何でもない……多分」

 どこかで覚えがあるような……気のせいかな。

「変な奴」

「じゃあ、今日は、はやめに休もうか。部屋に戻ろう」

「あぁ」

 歩きだしながら、私はずっと気になっていたことをレックに訊いてみた。

「あのゲーム作った人って、何者? あれって召喚アイテムだったんじゃあ……」

「さぁ? 知り合いの兄ちゃんにもらっただけだし」

「他の人にも配ってたのかな」

 そう訊くとレックは首を傾げた。

「知らない。もらった時は一人だったけど」

「あんまり怪しい物、もらわないでよ」

「しょーがねーだろ今更」

 レックは開き直っている様子だ。

「ま、そうだけど。一生物の体験しちゃってるし」

 私は頬が緩むのを止められない。笑いをこらえるので精一杯だ。

「嬉しそーだな……」

「でも、誰が、何のために、こんな役立たずそうな一般市民を召喚したのか。気になるなぁ……」

 ここで考えても答えの出ることじゃないとは思うけれど。

「行けば解るだろ」

 レックはあっさりとそう返し、私もきっとそうだろうと思い同意した。

「そうだね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ