ゲームぶっちゃけ話
「それで、あのゲームってどういう話だったか覚えてる?」
案内された部屋に入って扉を閉めると、さっそくレックと二人で、ぶっちゃけ話を始める。
小さめのテーブルと椅子、ベッド二つに風呂が付いている部屋だった。レックは靴を脱いでごろごろとベッドの片方に転がりながら答えた。
「あんまし。俺バトル専門」
「あっそ……。確か、主人公がメント国の守護騎士で、隣国ベアリス国の闇の術法士と、火の守護石を巡って戦う……って話だったと思うけど。今、何か起きてるのかな」
ゲームであったようなことが今動いているのかどうか。
「さあ? 少なくともここ、メント国の首都レオカリスはふつーだったみたいだけど」
「それとなくガイ達に聞いてみようか。うっかり外で巻き込まれたら困るし」
「そーだな……」
レックが考えるように答えた。
「一応言っとくけど、私『レベル一でクリア』とか出来ないから。地道に行くよ」
そう言うと、レックは不満そうな声を上げた。
「えー」
『マサト』は、どっちかと言うとゲームではバトル専門で、RPGでは『レベル一でクリア』とか、『初期装備でクリア』なんて言う、ちょっと特異(?)なプレイスタイルに挑戦してることは知っているけれど。それをここでやるのは、難易度高いと思う。今回は失敗したらお終いだと思うし。ゲームみたいに、やり直しはきっと出来ない。
私は堅実な方を選ぼうとして、かえってドツボにはまったりするタイプだったりするんだけど。防御力より、攻撃力を上げた方が楽な展開になるゲームでも、なぜか防御力を上げたくって困ったり――って、話が逸れた。
「しょーがないでしょー。レックがやるなら止めないけど」
私は修行なしでクリア出来る自信がない。幸い、修行するに従って、敵まで強くなるタイプのゲームじゃなかったし。あのゲームがこの異世界に忠実に作られていたなら、だけど。
レックはちょっと考え込んだ後、非常に残念そうにため息をついた。
「……止めとく」
「巻き込まれても平気な位強くなれたらいいんだけどね。当面はここで修行して、北の地を目指すってことでいい?」
レックがうなずく。
「ああ。鳥に食われかけるなんてもうこりごりだっつの。けどあそこ、レベル十以上ぐらいじゃなかったっけ?」
「どの位修行したらレベル十なのか解らないけど。ま、やってみるしかないね。火、水、土、風、宇宙のうち何が使えるかも未だ不明だし。光術法なのは確かだろうけど」
五つの術法はさらに光と闇の属性に別れており、一般的に使われるのが守護石を媒体とする光術法。闇術法には守護石が存在せず、詳しい成り立ちは解明されていない。
「まーな。瞬間移動とか出来る宇宙だったりすると楽なんだけど」
「そう都合良く行かないって。それ宇宙の中でも一番珍しい特殊術法じゃない。こっちもギードの件はもうこりごりだよ。んじゃ、今日ははやいトコ寝よう。流石にちょっと疲れた」
「うん」
レックも今回は素直に、首を縦に振った。こうしてベッドに入って灯りを消したのはいいけれど。
「…………」
疲れてる筈なのに、何だか目が冴えている。レックもそうなのか、身動きする音が聞こえていた。
「……起きてる?」
そう声をかけると。
「ん? 何だよ」
返事と同時に視線がこちらに向けられた。やはり眠れてはいなかったらしい。
「何か凄いことになっちゃってるけど……。一緒に元の世界に帰ろう、ね?」
私が励ますようにそう言うと。
「……てっきり残るとか言うかと思ったのに」
暗いのに、ジト目さえハッキリ見える気がした。
「そんな。そりゃー……楽しいけど」
「やっぱり」
思わずにやけた私に、レックの呆れたような口調が返って来た。
「でも、あんたを置いて遊び回れる程、気楽な状況じゃないこと位解ってるよ」
「ならいーけどさ」
レックはこちらに背を向けた。
「それに、あんたとはパーティ組むことになりそうだし。行方不明で大騒ぎになる前に帰れるといいんだけどねぇ。ま、帰るまでよろしく」
私がそう挨拶すると。
「……ふん」
背中越しにそれだけが聞こえた。
「もーちょっとマシな返事はないんか……」
「ない」
レックは短く即答だ。
「全く……先が思いやられるよ……」
だけど、いくら面白い異世界でも、一人じゃなくて良かったとは思う。
――ぶっちゃけ話は流石に他の人とは出来そうにないし。
「おやすみ」
「うん」