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ハタ迷惑な人

 再び賢者リセルに飛ばしてもらい、妖精界の入り口に戻って来た。今度は皆も一緒だ。フィアレスに守護石の使い方を聞いた後、ずいと差しだされた守護石を借り受けた。

 守護石の波動に乗せて、精神を澄ませる。同じ世界の波動が……糸のように繋がる。

 すると何度か聞いた心声が響く。

『空間を閉じてしまったから、宇宙の術法力で切り開くの。力を貸して――』

以前、聞いた時よりも、随分と落ち着いて、通る心声。

「宇宙で?」

『そう、宇宙の術法力で、あなたが』

「え? でも宇宙の術法力は使えない」

 多少とまどいながら、そう返すと。

『大丈夫、あの人が来てくれる、きっと』

「あの人?」

 誰のことだろう。

『きっかけさえあれば、それでいい。同じ波動を持つあなたが鍵になる』

「リアリィ?」

 ふいに、覚えのある気配が辺りを包んだ。集中していた意識を引き戻す程に。

「まさか!」

 叫ぶと同時に勢いよく振り返る。

――青みを帯びた黒の髪。土を包む風の気配。風渡る草原のようなイメージだ。

「ガイ……!」

 隣で、アレストの声がつぶやく。その声と同時に、一歩、踏み出す。

 あの時、幻のようにすり抜けた手。それが確かに……触れる。繰り出した右拳を、乾いた通る音と共にガイが受け止めていた。

「――ッ! 師匠……。生きて、いたんですね……!」

「ああ、心配かけたな」

「そんな言葉じゃ……表現出来ない。あの時の無力と不安を表せる言葉を知らない……!」

確かな手応え。それが言葉じゃ言い尽くせない程、嬉しい。

「済まない。だが俺は、誰かのために命を捨てることはしない。――意地でも戻るさ。お前達に会うためにな。それが俺の望みでもあり、あの時の『誓い』の意味だ」

「誓い……?」

 何のことだろうか。

「覚えて、いたのか」

 アレストが、少し驚いたようにそう息を呑んだ。

「当然だ。昔なじみの朋友(とも)の言葉だ。お前は忘れたのか?」

「まさか。忘れはしないよ。本当に良かった」

 アレストがほっとしたような笑みを見せる。

「相手が死ぬのは辛いことだ。互いにな」

「ああ」

 ガイとアレストが、明るい表情で腕を上げて拳を打ち合わせる。

「アレスト、さっき、地下で言ってたのは……」

 私がそう問いかけると。

「あぁ、『誰かのために命捨てたりしない』か?」

「そう、それ」

 肯定すると、アレストはガイを指さした。

「昔……な、こいつと約束した。あの頃はお互い無茶もやったし。最も、俺自身そう思ってはいるけどな」

「そっか。でも『約束』してくれていて良かったよ、本当に」

 もし、自分のためにアレストが死んでいたら。それは、想像以上に重い事態だ。勿論、ガイが犠牲になることも。人の命の重さは、人殺しをしてしまった時点で十分知ったつもりだ。

 だから、二人が『自分を犠牲にする』思考じゃなかったのは……良かったと思う。

 レイナがガイの前に進み出ると、問いかける。

「一つ、聞いていい?」

「何だ?」

「あの時、西の塔の近くには、あなたの気配も風の気配もしなかったわ。どこにいたの?」

 そう、それは自分も気になっていた。思わずガイの方に視線を向けると。

「あの時、リアリィ……と言ったか。術法士が俺の術法に干渉して、北の地へ飛んだ」

「北の地……それで気配が視えなかったのね」

 レイナが納得したようにつぶやく。

「リアリィが?」

 私はそっちに引っかかりを感じて、思わず声を上げる。

「ああ。北の地の奥の間には、癒しの場があるんだ。ついでに主に復活の間の『鍵』を借り受けて、賢者に届けた。守護石が砕けた以上、必要になると思ってな」

「あっ!」

 と言うことは。アレストも気付いた様子で、驚きを持って言葉を紡ぐ。

「あの時、賢者は知っていたのか! お前が生きていること」

「誰も『死んだ』とは言わなかっただろう」

 アレストは深いため息をついた。

「確かに……訊くこともしなかったな。知っているとも思わなかった訳だが」

「リセルさんが言っていた『特別のルート』って、師匠のこと?」

 私がそう訊ねると、ガイは気付いたように解説した。

「ん? あぁ、宇宙の術法で繋がれたルートを、そう呼ぶんだ」

「へぇ……」

「賢者に、リアリィのことを聞いてな。俺も、妖精界の入り口に行った。接触自体は上手く行かなかったが……とても珍しいものを見せてもらった」

 ガイの微笑みが深くなる。

「珍しいもの?」

「突然、空間が揺らぎ、お前達の姿が見えた。二つの空間が重なり、精神体だけが時空を超えた。深い闇と、繋がる思念。リアリィがそちらに『飛ぶ』時、俺も賢者と共に力を貸したが、その反動で弾かれてな。こちらもレオカリスまで飛ばされて――今、戻って来た所だ」

「あの時、師匠がいたのか……」

 空間の向こうに。――気付かなかった。

「知らせてくれれば、と思うか?」

 ふいに聞き覚えのある声が降って来る。振り向くと、木陰に、銀色の光。

「シフ! ……いつからそこに?」

 ガイに気を取られて……いや、ガイの『風』が強いため、気付けなかった。

「さっきからずっとな」

「こっちに来て大丈夫なのか? レオカリスは――」

「――ああ」

 アレストの問いに、シフは不承不承と言う感じにうなずく。

「守護石が復活したことだし、問題ないだろう」

 ガイは気楽な調子でそう言った。

「全く、師匠が衝撃と同時に王宮に転移して来た時には、敵の奇襲かと思った」

 シフの睨め付ける低い声音に、一行の視線がガイへと向かう。

「ただでさえ、あんな状態の城を任されて、危うく攻撃する所だ」

「シフ……」

 大変だったのだろうと、私は思わずその名を呼んだ。

「ガイ……お前、あまり弟子に負担かけるなよ……」

 アレストが呆れとも突っ込みともつかない風につぶやくと、シフの方を見遣った。

「……なぁシフ、こういう時、なんて言うか、知ってるか?」

「何だ?」

「ふざけんな! お前に庇われて俺が喜ぶとでも思うか! この後始末どうしてくれる! ハタ迷惑な奴だなっっ!」

 ガイに掴みかからんばかりの妙に実感のこもったアレストの叫びに、シフは一拍置いて笑った。

「ふっ……考えておくよ」

「ああ」

「そうだよ、こっちなんか、思わず拳入っちゃったし」

 私はそう言って拳を握って見せる。

「そうか」

「うん」

「なぁ〜リアリィは? はやく開けよーよ」

 レックの言葉にようやくそのことを思い出した。

「あ、そうだった。師匠、お願いします」

 ガイに、宇宙の術法力を剣に込めてもらう。そして、それを――構えた。

 揺らぐ空間に向かって剣を振り切ると、いつもとは違う手応えと共に、目の前の空間が切り裂かれ、その向こうに……違う景色が見えた。

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