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仲間達の目覚め

 私は多分私達を庇ってくれたのだろうと言う負い目を感じて、最初にアレストに駆け寄った。覗くように側に膝を付き、肩に手を置いて恐る恐る声をかける。人の死には未だ慣れない。今のアレストは違うと、半ば解ってはいたけれど。

「アレスト。大丈夫、か……?」

 肩を軽く揺さぶりながら呼びかけると、アレストは目を開き、自分の体を見下ろしながら確かめるように答えた。

「ああ……何ともない。……お前は」

「大丈夫……って言うか、ごめん。何か思いっきり盾にしちゃった感じで」

 位置の関係上、アレストが自分の前正面に立っていた。一瞬だけ見えた、金と青の色。あの時の風景を覚えている。あれは私と賢者リセルを立ち残らせてくれたアレストの背中だったんだ。賢者リセルが後衛で私を引き戻してくれなかったら私自身の命も危なかった。そう思い至った私は、うつむきがちにアレストに謝った。

「気にするなよ、あの位置じゃ当然そうなるだろ。一応ガード担当だしな」

「う、まぁ……」

 それはそうなんだけれど。頼もしく感じる一方、やはり罪悪感は消えなかった。

「けどまぁ、誰かが盾になって死んだりしたら、やっぱり気分良い訳ないか」

 それは、その通りだと思う。沈黙しか返せない自分に、アレストは言う。

「……だからさ、俺……、誰かのために命捨てたりしないって、決めてるんだ。どんなに命張っててもさ」

 アレストは真っ直ぐな視線でそう言うと、――微かに照れたように笑った。

「アレスト……」

 何て言うか……重さが違う。多分経験の差なのだろう。

「それはともかく、何がどうなったんだ?」

「うん、でも説明の前に皆を起こしてからにしよう」

「ああ、解った」

 私は次に手近なレックに走り寄り、その上半身を起こして揺さぶった。

「おーい、レック」

「…………何だまたあんたか……」

 レックは私の膝に頭を預けたまま、目を開くなりそう言った。

「レック……今の言い方は引っかかるけど。あんたが一緒でなきゃ、一緒に帰れないじゃないか」

「当たり前だろ〜〜言葉変だぞ」

「とにかく、絶対あんたを連れて帰るから。例え、死にかけても……引き戻してあげるよ」

 そう言うと、レックはちょっと嫌そうに眉をしかめて訊く。

「あのさぁ、死にそうになる前に何とかなんない?」

 私はその言葉には胸を張って即答した。

「ごめん自信ない。そういうのがよければ、アレストにでも頼んで」

 レックは大仰にため息をついた。

「頼りねーなぁ」

「ま、とにかく良かった」

「まぁな」

 私はレックを立たせると、レイナの方を振り返る。レイナは既にスカートのすそを払いながら立ち上がっていた。

「レイナ、無事?」

「うん、でも……」

「……痛かった?」

 あの時の赤い惨状が目に浮かぶ。

「ん……それはもう平気」

「そっか……ありがとね」

 私はレイナの肩に両手を置くと、滲むように微笑む。

「え?」

「レイナが教えてくれたんだよ。望む道筋を諦めないこと」

 そう、だから今皆ここにいるんだ。

「お姉ちゃん……何があったの?」

 その時背後から声がかかった。

「説明してもらうぞ」

 相変わらずぶっきらぼうなその声は、フィアレスだった。

「フィーレ、もういいのか? 最前線にいたから、ちょっと心配した」

 本当はちょっと所の話ではなかったのだけれど。フィアレスに取り乱した姿を見られなくて私は少しホッとしていた。術法耐性低い割りに、平気そうだよなぁと思いつつ声をかけると。

「問題ない」

 と、一言。自分もそれにうなずく。

「そう。……リアリィがさ、助けてくれたんだ。良く解らないけど、運命の戦士の逆転の秘術だって、リセルさんが」

「運命の戦士の秘術か。……」

 フィアレスは考え込むように、沈黙を落とした。

 私は、先程から皆が揃ってから言おうと思っていたことを、思い切って口にした。

「……皆、ごめん! 私が浄化したいなんて言い出したせいであんなことになって……!」

 私が、ぶり返す後悔で泣き出しそうになりながら、頭を直角に下げて謝ると。

「同意した時点で自己責任だ」

「そうよ、私もやりたいって言ったんだもの」

 フィアレスとレイナのフォローが入り、続けてアレストが口を開いた。

「ああ、気にするな。お前のせいじゃない。全員の力不足だ」

「ま、皆生きてたんだからいーんじゃね? ……痛かったけどな」

 レックにまでそんなことを言われて、私は気が緩んで床に座り込み、涙をこぼした。そう、以前は涙を見せたら負けだと思っていた。だけど今は違う。この連中になら見せられる。それでも自分は自分だと、それが崩れたりはしないのだと、そう思えるようになっていたのだ。

「お前も命を懸けたのだ。そう自分を責めるな。私にも責任はある」

 賢者リセルまで、珍しく慰めの言葉をかけると、手を伸ばして私を立たせてくれた。

「皆……。ごめん。ありがとう。でも本当に皆生きてて良かった」

 私が、それでも年下連中の前で泣いたことを、少し気恥ずかしく思いながら、涙を拭いていると、賢者リセルが改めて口を開いた。

「異界の闇については、問題はない。守護石の復活に関しては、光の戦士と――」

 賢者リセルとアレストの目が合う。アレストはやや緊張気味の表情をしている。

「火術法戦士、お前に任せる」

「え、俺っ?」

 いきなり振られたレックが驚いた様子で叫んだ。私は完全に涙が乾いて微笑む。

「大役だね、レック」

「『火』は使えるな? 守護石が砕けた今も」

 賢者リセルがレックに向けて確認を取ると、レックは少しとまどった様子で。

「あ、一応使えるけど。え、でも何で? あんたがやるんじゃないのか?」

 そう、レックの言う通り、賢者リセルも守護石に頼らずとも火が使える筈だ。ゲームで守護石を復活させたのはアレストと賢者リセルだったのだから。

 だが、賢者リセルはちらりと周囲を見遣った後、レックに視線を合わせてこう言った。

「私は、他に用があってな。頼めるか?」

 そう、今、この不安定になっている空間を何とか出来るとすれば、この中では賢者リセルだけだろう。

「えっ……と」

「必要なら、私も術法力を貸すわ」

 と、レイナが口添えすると、レックが迷うように呻いた。

「ん〜」

「――ほら」

 私は相棒の肩を力を込めて叩いた。

「痛ーな、他人ごとだと思って」

「まさか。君の火はよく解ってる。……大丈夫だよ」

 強気な微笑みで、レックの背中を押すと、レックが微かに息をついた。

「俺も未だあんまり自信ないけどさ。一緒に頑張ろうぜ」

 アレストの言葉に、レックはちょっと嫌そうながらも応じた。

「自信ないとか言うなっての。……解った、やるよ」

「ああ、行こう」

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