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第二パーティ 二

 夜半過ぎにアレストは、シフの部屋の扉を控えめな音で叩いた。

「夜中に済まない、起きてるか?」

 アレストがそう声をかけると。

「あぁ、何だい」

 声で解ったのか、シフは誰何(すいか)することなく扉を開けた。

 アレストは、シフを見て、その顔色が流石に悪いと気付いた。無理もないと思いつつ、本題を切りだす。

「レオカリスから、お前宛てに書簡だ」

「私にか?」

 アレストが、忍びのルートで来た急使の印を見せると、シフはそれに気付いた様子で。

「入ってくれ」

 言葉少なにアレストを室内に招き入れると、書簡を受け取ってその場で広げる。アレストは黙って、扉近くに立ったままでシフが読み終えるのを待った。

「…………」

 シフはやがて書簡をたたむと、がっくりと疲れたようにため息をつく。

「どうやら師匠は相当の勢いで城を放って来たらしい……」

「と、言うと?」

「師匠が王都の守護の要であることは知ってるだろ? ……術法に関してだけだが」

「あぁ、一応」

 アレストはそう答えた。身内の公的な話は少々苦手だ。

「師匠がこちらに来る時、その守護結界の維持処理もろくにせず、直接こちらに『飛んだ』らしい」

「……内側から、結界を超えた、ってことか?」

 アレストが確認を込めて訊くと、シフはうなずいた。

「ああ。そのせいで、現在、守護結界が揺らいでいる、と」

「かなり、まずいのか?」

 シフは浮かない表情で。

「今、ベアリス国に攻め込まれたら、結界は破れる」

「何!」

 事態の深刻さにアレストも表情を引き締めた。

「向こうに宮廷術法士がいなくなったにしろ、術法士は他にもいる上、こちらには火の守護石がない」

 シフの言葉に、アレストも続けてその重大性を口にする。

「この大陸は、火の術法士の割合が多いしな。守護石に依らない闇の術法士が、他にも向こうにいるとなると……マズイな」

「至急、結界を張り直す必要がある。今、ここで抜けるのは心残りだが……。私以外、出来そうにないからな。一度、レオカリスに戻るしかなさそうだ」

 シフは決心したようにはっきりとした口調で言った。

「シフ……。そうだな、確かにシフが一番適任だろう」

 ガイの一番弟子であるシフがふさわしい。アレストが複雑なものを感じながらもそう認めると。

「……済まない。身体が二つあればいいのに、と思う」

 シフの絞り出すような謝罪に、アレストは軽めのトーンで返す。

「シフが謝ることじゃないだろ。あいつ……ガイはさ、これと決めたことには、昔から勝手をする奴だ。――誰のせいでもないさ」

「そんな風に割り切れる物じゃない。私がもっとしっかりしてさえいれば……」

「シフ、俺も、何も出来なかった自分がふがいないよ」

 正直言って、アレスト自身も割り切れてるとは言い難い。ガイとは古くからの付き合いだ。アレストが守護騎士になる以前からの。アレストの声は知らず、僅かに真面目な声音に変わっており、シフはそれに気付いた様子で、話題を変えた。

「所で、異界の闇をどう見る?」

「未だ何とも言えないな……術法士タイプみたいだったが。――そっちの方が解るんじゃないか?」

 そう振るとシフは答える。

「あの『呪い』――浄化など出来そうになかった。少なくとも、あの弓程度ではな」

「浄化?」

「ああ。あの時レイナはドラゴンを浄化しようとしたんだ。あれが闇の呪いなら、浄化で戻せるかもと、思ったのだろうが」

 その言葉で、あの時のレイナの行動に納得した。

「そうか……」

「まぁ、結局は無駄だったが」

「だが俺は、その意志を尊重したい」

 アレストははっきりと、そう言葉にした。

「術法の使い方は一つじゃないと、あの子は言ってた。――殺す以外の方法があるのなら、選ばせたいんだ」

「自らの経験……か」

 シフは問うようにそう言った。

「……少しはな」

 その質問に多少困りながらもアレストが肯定すると、シフは表情を緩めて言う。

「そっちも、あまり気負うと大変だぞ」

「……そうだな」

「不本意だが、後は任せる」

 シフの真剣な言葉を、アレストは受け取った。

「ああ、承知した。塔の捜索に関しては、レオカリスの方に指揮権を移した。向こうには直接情報が入る筈だ。こっちは忍びのルートで情報を回す。――やっぱ完全に無関係ってのは、難しいよな。……便利なのは確かだし」

 アレストはそうぼやいてため息をつく。

「あまり気にするな。戻る訳でもあるまい」

 シフのとりなしの言葉に、アレストは軽く同意した。

「あぁ、ちょっと肩身は狭いのが難点だが……その位の特典は欲しいな」

「でなければ、やってられん……か?」

「その通り。それに……悪いことばっかりじゃ、なかったからな」

 アレストが忍びだった頃の過去に思いをはせ、ゆっくりと表情を緩めながら答えると、シフもつられるように少し微笑んだ。

「そうかい、前向きで結構」

 それを聞いて、アレストは胸中で前向き、か……と独りごちた。

「んじゃ、そろそろ退散する。じゃあな」

「ああ、配達どうも」

 廊下に出ると軽い音を立ててアレストはシフの部屋の扉を閉める。

 扉を背に、先程のシフの言葉が頭に甦った。前向き、か。

「俺も、もう一度、望んでみるかな――」

 そう、アレストはつぶやいていた。

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