西の塔はランダム転移?
「あれが……西の塔か」
賢者に飛ばしてもらった転移先、目の前にある灰色の石煉瓦造りの高い塔を見上げてアレストが言う。見かけは割と一般的な装飾の少ないどっしりとした塔だった。
「こっちだ」
シフが全員を手招いて、塔の裏の方にまわり、扉の術法封印を壊して中へ入った。
「広いな……」
アレストのひそめた声や私達の足音が、思ったよりも空間に響く。その中をこっそりと隠れながら探索する。先頭を突っ切るのは、相変わらず人に合わせるという言葉とは無縁のフィアレスで、アレストとシフがほぼ横並びで続き、自分達はその後ろ。バックアタックがないことを祈るしかない隊列だ。
「思ったより人気がないな」
アレストが前に出て、部屋の扉に罠がないか調べながらつぶやいた。
「恐らく、一部の術法士の独断なのだろう。国としての情報はなかった」
宮廷術法士の一番弟子シフの言葉に、アレストの方もうなずく。
「ああ、俺の方もなかった」
アレストは多くを語らなかったが、ゲームをやっていた私とレックは知っていた。アレストが元、忍び出身で、王直属の特殊部隊という、各方面から一芸を持った連中が引き抜かれた少数精鋭部隊に所属する、単独任務の多い少し変わった守護騎士であることを。まぁだからどうって訳でもないんだけど、裏からのルートでも情報はなかったと言うことなのだろう。
塔を探索した結果、一階の隅にある部屋で、一段高くなった場所にある小さな術法陣を見付けた。どうやら上層階に行くには、これが必要なようだ。
「転移陣、か?」
アレストの言葉にレイナがつぶやく。
「そうみたい。でも、小さいわ。……一人用?」
「そのようだね」
シフが陣を見やって肯定する。
「さて、どうするかな」
「行くしかないだろう」
アレストの言葉に面倒そうに言い捨てるなり、フィアレスは陣に踏み込んだ。
「あ」
声をかける間もなくフィアレスの姿が陣の中に消えた。転移先が壁や空中だったらどうしようとか、絶対考えてないに違いない。
「フィーレらしいね。確かに行くしかないみたいだけど」
そう言いつつ、私は思い出していた。確か、この転移陣、ランダム転移だった筈。あのゲームの通りなら。上の階のどこのポイントに飛ぶか解らない。下手すると、パーティ分散するだろう。私は、レックと離れるのはマズイな、と思った。いや、他の誰かと一緒なら、戦力的に自分よりも問題ないとは思うんだけど。火の使えない今のレックを最悪一人にすることだけは避けたかった。しかし今の自分に出来るのは願うこと位だ。だからレックに強気な視線を向けて告げる。
「じゃ、先行くから」
「ああ」