1 ストーリー
こんにちわ、アーサーです。
はぁ、と気だるげな声を出しながら青年はPCに向かう。
箱庭系MMOゲームが出ており、戦国時代を模した城下町や農地が映し出されていた。
しかし、それは無残に破壊されてしまっている風景だったのだ。
煌びやかな城は煙を出しながら半壊。
城下にある商家、鍛冶場は壊しつくされて灰色の煙が漂う。
そして村の田は焼け野原。
先程ログインした時まではすべて何も異常はなかった。
美しい城下町が広がっていた。
ただ、一区切りついたと思って風呂に入っていた。
時間にしてみれば10分だ。
その合間に狙われた。
何にもおかしいことではないただただその時間に攻め入られてしまったのだ。
だが、彼、松葉祥吉郎には遣る瀬無かった。
このゲームの戦い方は4人の将軍に兵や物資を預けて突撃し、防衛側はコストの限り、兵や将軍を持って防衛するという簡素なもの。
通常は塀の数で勝敗が決まる防衛側有利の戦いだ。だが負けた。
「おいおい、マジかよ。なんで一期目にしてスーパーレア++持ってんだよ...」
戦歴を見てみると相手はランキング十傑に乗っている名の知れたプレイヤーだった。
所謂、廃課金勢、ガチプレイをするソロプレイヤー。
当然の如く、全てがスーパーレアで固められ、そしてすべてがカンストに近い。
「そろそろ、このゲームも終わりだな...。」
祥吉郎は、課金自体に文句を言う気はない。
運営が仕事をする上で大切なことだと重々承知している、いやつもりだった。
ゲームバランスが壊れている...、金の力を偉大だと思わせるほどに...。
課金でしか手に入らないカード、一期労してやっとカード一枚をカンストにできることを前半にもかかわらず行える課金サポート機能、どうしようもならない差は歴然として存在する。
そんな風に思いたくないかった祥吉郎は、少し前まで、そうさっきまで無茶をしていた。
ギルドを創設し、微課金・無課金連中を200名を従えてランキング上位の課金勢を根絶やしに、それこそ復活した瞬間に即お陀仏にしていたのだ。課金連中には恨まれに恨まれたことだろう。祥吉郎も課金勢が嫌いでやっていたわけではない。ただただ、自身の国の勝利の為に貢献していただけなのだ。
課金をする者が貢献する率が高いから効率よく狙っていた。
今の無気力さはその努力も無駄だったと告げられたようだった。
いくら人がいようとも無駄だった。
20人ものPCが援護防衛したのに関わらず一人のプレイヤーに敗北したのだ。
理不尽だと叫びたかった。
だが、会話ログを見る限り憤りを感じているの自分だけだ。
自分以外の同盟員のすべてが別に何とも思っていないのだった。
それもそのはず、彼らは意識していないのだから。
意識して、勝手に憤って、勝手に勘違いしていたのは自分だったのだ。
課金者がいくら課金しようとも勝てない者があるぐらいの良心があると勝手に思って勝手に裏切られただけだった。
システムは運営の意志で社会の流れであると、妙に賢ぶったバイト先のゲーマー先輩に言われたことがある。今の時代のゲームは楽しいゲームではなく、効率の良い只管に綺麗なグラフィックがとりえのゲームだと、もちろんすべてではないのだけれど自分にはすべてに見えてしまう。
ああ、これこそ無気力なのか...。
高3の猛勉強もあって国立の大学に入った自分は、講師の何の脈絡もなく発せられる不思議楽しい(笑)小難しくて理解できない単語をノートの端に書き取りながら今はただ板書している事柄を気だるげに頭半分に反芻する。
そうしていると後ろから誰かにシャーペン?でつつかれた。
「なぁなぁ、マッちゃん、マッちゃん。」
「何?」
後ろを向いてみると何が楽しいのかニヤニヤとした顔をした青年が講師である中年の男性の方にペンを向けて、何かを描くように丸く描く。
「アイツはヤバイな。どこがヤバイかと言うとザビーハゲがヤバイ」
ブッ!!
傍耳を立てていた周りにいた男子学生が一斉に吹いてしまった為、中年ハゲ講師がこちらに向いた。
「ん?どうしたかね?」
講師の言葉に誰も反応しない、講師は諦めて講義を続行した。
「おい、竹橋!目を付けられそうだったじゃないか。」
コソコソと小声で話しながら祥吉郎はチラチラと講師を見ながら竹橋祐二を睨む。
「不景気そうな顔してたから、ちょっと励ましを。」
「いらねぇ、ポイ捨てだ。ポイ捨て。」
汚いものを見るかのよう睨み付け、シッシと手を振る。
「ひっでぇな~。」
相も変わらず祐二はニヤニヤと笑いながら祥吉郎の反応を楽しむのだった。
今日は3限で講義が終了する曜日だったため、背伸びしながらさて帰るかと席を離れようとするとガタンと祐二も席を立ち、近づいてくる。
「さて、親友、帰るか!」
「会って、2週間で親友とは、底が知れる。」
「そんな親友が大好きだぜ!!」
「近寄るな、変態。」
とじゃれ合いながら最寄りのバス停に向かうと祐二が大きな紙袋を持っていることに気付いた。
「なんだ?」
祥吉郎は紙袋に目線を向けたまま祐二に聞いてみた。
祐二はああこれね、と紙袋を持ちあげて意気揚々に語りだす。
「一年前に電撃的な発売が成されたゲーム【オーディン】。多種多様な種族、多種多様な職業を操れることが触れ込みなっている伝説的なゲームだぜ!!」
ゲームから一線を引いている祥吉郎は、何が伝説的なことなのか良く分からないままウンウンと相槌をする。それに気付いて祐二は勢いよくこう言った。
「世界初のVRMMMOだ!!」
「VRMMO?」
小説その他でフィクションで語られるあれが?
技術の発展と言うのは早いもんだと祥吉郎は感嘆した。
「で、それを持ってるということは?」
「そう今日からオレも神の兵士だぜ!!」
「ふ~ん、ガンバレ。」
「反応薄!!」
どうだどうだと自慢したがってる奴に応える気力など毛頭なかった。
だが、次の一言には祥吉郎も驚愕を示す。
「で、これやるよ。」
「は?」
「いや、やるって・・・」
聞いてみると数日前に祐二はこのゲームの懸賞に応募していたらしく、お一人様一口をなんとか上げたかったそうで他の人の名前を書き加えていたそうだ。そして、その中にはオレもいた。
そして届けられた筒を開けてみるとあら不思議二つ入っていてしかもどうやらその本人しか使用不可能だったらしい、極めて運が良いことに本人である祐二の名前で当選したのは良いが片方は違う人、そして誰か調べてみるとどうやら自分だったらしい。
「メンゴ?」
「お前・・・・!!」
言いようもない憤りを感じたが、まぁもういい、済んだことだ。
不問にしてやる。
「で、どうやるんだ?」
「ええっと、これは一体型のゲームだからそれ単体でできるんだぜ!!」
「へぇ~、珍しいな。」
そう言う類のゲームはMMOにはあまりない。
そういう意味でおいてもこれはとてもいい機会だと祥吉郎はおもった。
あの無気力から早一年。
そろそろ抜け出したいとそう思っていた。
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