表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に選ばれしギルマスですが、メンタルがHPより先に削れます。~社畜リーマンの異世界再建譚~  作者: 無月公主


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

4

管理ルームの中は、昔のままだった。


 何度も見慣れた、レトロなコントロールパネル風の操作盤。半透明の光で浮かぶ城内マップ。右側には、施設拡張の候補一覧が縦に並び、見覚えのあるアイコンが整然と瞬いている。ゲームの中で、何度この画面を開いただろう。攻略の合間に設備を増やし、効率だけを求めて拠点を整えていた頃の記憶が、胸の奥からじわりと浮かび上がってきた。


「……懐かしいな」


 モリヒトは小さく呟き、指先で操作盤をなぞった。


 改装費用を確認する。表示は記憶通り、一か所につきおよそ二千万ギル。今の個人資金なら問題なく払える額だった。少なくとも、一つ二つの改装で詰むことはない。


「最初は……一階のホールだな」


 今のホールは広いだけで、あまりにも殺風景だった。攻略拠点としてならそれでもよかったが、今は違う。ここはもう、一時的な集合場所ではない。全員レベル一で、地球にも帰れない以上、これから先はここで生活していくことになる。必要なのは見栄えではなく、暮らせる環境だ。


「……食堂、追加で」


 決定ボタンに触れた、その瞬間だった。


「……ん?」


 モリヒトの眉がぴくりと動く。


「どうしたの、モリヒト?」


 隣で画面をのぞき込んでいたミカサが、不思議そうに首を傾げた。腕にぴたりとくっついたままの距離感はいつも通りだが、今はそれを気にする余裕がない。


「いや……改装したのに、所持金が減ってない」


「え?」


 おかしい。確かに改装は反映されているのに、支払いだけが発生していない。


 胸の奥に妙なざわつきを覚えながら、モリヒトはギルド資金の表示を開いた。


 そこに並んでいた数字を見て、言葉が止まる。


 ――680,000,000G


「……は?」


 思わず、間の抜けた声が漏れた。


 さっきまで、ギルド資金はたったの百五十九ギルだったはずだ。それがいつの間にか、六億八千万ギルになっている。桁を見間違えたのかと思って何度見直しても、表示は変わらない。


「おいおいおい……まさか……」


 震える指で、自動日誌を開く。


 そこには、寄付記録がずらりと並んでいた。


《ミカサ様が二千万ギルを寄付しました》

《エクボ様が二千万ギルを寄付しました》

《タナカ様が二千万ギルを寄付しました》

《キクチ様が二千万ギルを寄付しました》

《ロレイナ様が二千万ギルを寄付しました》

《ユッキー様が二千万ギルを寄付しました》

《エゾシー様が二千万ギルを寄付しました》


 その先にも、まだ名前は続いている。


 ホールにいた全員が、黙って自分の資金からギルドへ寄付していたのだ。しかも、示し合わせたように一人二千万ギルずつ。


「……まじかよ、あいつら」


 改装費用が心配で、自分だけでどうにかしようとしていた。その考えを見透かしたみたいに、仲間たちは先回りして支える選択をしていたらしい。


「……まったく、お前らは……」


 呆れたように息をつきながらも、口元がゆるむのを止められなかった。


 ミカサはそんなモリヒトの横顔を見て、ふっとやわらかく笑った。少し離れた場所で腕を組んでいたエクボも、いつもの皮肉っぽさを引っ込めた顔で肩をすくめる。


「よかったじゃねえか。お前、一人で背負い込む気満々だったろ」


「うるせぇ。ちょっとだけだ」


「ちょっと、で済む顔してなかったが?」


 エクボの言葉に、ミカサがくすりと笑う。


 モリヒトは鼻を鳴らして画面に向き直った。


「……よし。感動してる場合じゃねぇな」


 ここはもう、単なる攻略拠点じゃない。地球が終わった以上、俺たちはこの城で暮らしていく。なら必要なのは、豪華な城じゃない。住める城だ。


「まず、必要なものから片づけるぞ」


「たとえば?」


「食堂、浴場、洗濯設備、個室の増設、共有スペースの整備。あと移動効率を考えて、ワープエレベーターも設置だな」


「そんなのまであったんだ?いつもはマップで選んだら飛べたからわからなかった!」


「確かに。ゲーム時代は要らなかった機能だな。」


 モリヒトは操作盤に手を走らせた。


 一階ホールには長机と椅子を備えた食堂を追加。奥には厨房を拡張し、簡易調理設備と保存庫を設置する。低レベル帯でも扱える食材を長持ちさせるため、冷却魔導棚も組み込んだ。


 続いて空き区画を住居スペースへ変更する。大部屋の雑魚寝では、疲れも抜けないし、生活の摩擦も増える。仕切りではなく、扉つきの個室を並べる形に設定した。


「個室まで作るの?」


「当たり前だろ。プライベート空間ゼロの共同生活なんて、三日で崩壊する」


「わぁ、説得力」


「ブラック企業勤めをなめるな」


 真顔で返しながら、さらに条件を詰めていく。


 部屋の広さは小・中・大の三段階。基本は全員に小部屋を無償提供。中部屋以上は倉庫利用や事情がある者だけ要相談。大部屋には維持費も設定する。


「家賃とるんだ……」


「だからこそだ。身内だからって全部あいまいにすると、あとで絶対もめる。最初にルールを決めるのが大事なんだよ」


 その声は、妙に現実味があった。たぶん会社でもゲームでも、似たような火種を何度も見てきたのだろう。エクボが横からぼそりと呟く。


「こういう時のお前、無駄に頼もしいよな」


「“こういう時だけ”みたいに言うな…胃がいてぇよ。」


 ミカサが吹き出し、管理ルームの空気が少しだけ軽くなる。


 改装後のホログラムが、次々と更新されていった。殺風景だったホールに食堂が生まれ、住居区画には整然と個室が並ぶ。中央塔には青白い光を帯びたワープエレベーターが追加され、城全体が“生活の場”として輪郭を持ち始めていた。


「……すげぇ」


 思わず、モリヒトはそう漏らした。


 攻略のためでも、ランキングのためでもない。みんなが休めるように。飯を食って、風呂に入って、眠って、また明日を始められるように。そのための改装だった。


「モリヒト」


「ん?」


「なんか、ほんとに……またギルドが始まるんだね」


 ミカサの言葉に、モリヒトの手が止まる。


 また始まる。


 終わったんじゃない。地球は終わったらしいが、少なくとも俺たちのギルドは、ここからもう一度始められる。


「……そうだな。今度は遊ぶための城じゃなくて、生きるための城だ」


「かっこいー」


「うるせぇ」


 照れ隠しに次の画面を開いた、その時だった。


「……よし。次は風呂だ」


「おおー!」


「男湯と女湯、どう分けるの?」


 ミカサの無邪気な一言で、モリヒトの手がぴたりと止まる。


「……あー」


「どうした?」


 エクボが怪訝そうに眉を上げる。


 モリヒトはこめかみを押さえた。


「いや……このギルド、見た目と中身の性別が一致してないやつ、多すぎるなって……」


 一瞬の間。


 それから、ミカサとエクボの表情がそろって固まった。


「あっ」


 三人の声が、見事なくらい重なる。


 仲間の居場所は作れそうだ。だが、平穏な共同生活への道のりは、どうやら最初から思った以上に険しいらしい。


 ――やっぱり、前途多難だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ