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神に選ばれしギルマスですが、メンタルがHPより先に削れます。~社畜リーマンの異世界再建譚~  作者: 無月公主


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3

ホールに戻ると、さっきよりも人が増えていた。


ロレイナが椅子に腰をかけ、タナカはテーブルの上で足をぶらつかせながらポーションのラベルを眺めている。アズマは壁によりかかりつつ、何やら黒革の手帳に書き込んでいて、キクチは持ち前の軽さで誰かと肩を組んで談笑していた。


まるで、何もかもがゲーム時代のまま――そんな錯覚を覚えるほど、自然な空間だった。


俺は一つ、深く息を吸い込み、声を上げる。


「みんな、ちょっと聞いてくれ」


ざわめきが止まり、全員の視線がこちらへと向けられる。


一呼吸おいて、俺は正面から宣言した。


「ギルド倉庫に残ってた金を、一旦みんなに分配しようと思う」


その瞬間。


――空気が止まった。


誰も何も言わない。


目線がわずかに泳ぎ、ロレイナとエクボがちらりと視線を交わす。キクチが口を開きかけて、すぐに閉じた。


(……ん?)


(なんだこの反応。もしかして……嫌なのか?)


思わず背筋に冷たい汗が滲む。


(まぁ、そうだよな……)


思い返せば、このギルド資金は、メンバーの善意の塊だった。

課金アイテムを売ってまで資金を提供してくれた奴もいたし、エクボに至っては俺が長らくログインできなかった間、ギルマス代行として実質的にこのギルドを回してくれていた。


そんな中――ぽっと帰ってきた俺が「金、みんなに分けるぞ」と言い出せば。


そりゃ、誰だって警戒する。


そんな不安が膨らみかけた、その時だった。


「……モリヒト」


落ち着いた、低い声。


エクボだ。


「お前、その金……一人で使わないのか?」


「は? 使うわけないだろ」


即答だった。


「これは……みんなで貯めた金だぜ? 当たり前じゃん。俺が独り占めとか、あるわけない」


言い切った瞬間――


「あ~~~ん♡ 好き好きモリヒトぉ~~~♡♡」


――ドンッ!!


何かが飛び込んできて、胸に豊満な何かが押し付けられる。


「ぬおぉっ!?」


衝撃でのけぞる。反射的に距離を取ろうとしたが、すでにしがみつかれていた。いつものミサカである。


「いえーい!」


「もりひと最高ー!」


「っしゃ!勝った!!」


「だから俺は分配派だって言っただろ!? 俺の勝ちだ!!」


ホール内が一気に沸いた。ハイタッチを交わす者、机をドンッと叩いて笑う者、「流石モリヒト!」と口々に叫ぶ者まで現れる。


「……な、なんだ、なんだ?」


俺がぽかんとする中、アズマが壁にもたれたまま、にやにやしながら手をひらひらさせた。


「いやぁ、悪い。ちょっとした賭けをしてたんだよ」


「……賭け?」


「モリヒトが、ギルド資金を独り占めするか、みんなに分けるか。二択だったんだ」


「おいおいおい……!」


どう反応すれば正解だ、これ。


「いやさ、さっきフレンドから連絡があってな」


キクチが片手を上げて補足する。


「ギルド《SSS・サーガ》のギルマス、レッカが――ギルド資金独り占めしたうえで、ギル員全員追放して、今ギルド城に引きこもってるって話があってよ」


「うわ……」


顔をしかめずにはいられなかった。


「人間、金が絡むと本性出るっていうけど……」


「そう。だから全員、ちょっとだけ疑ってたの。モリヒト、お前がどう出るか」


タナカが無邪気に足をぶらつかせながら言う。


その目に悪気は一切ない。それだけに、胸にくる。


「……お前らなぁ」


情けなさと、苦笑いと、でも少しだけ誇らしさが混じる感情が胸を突く。


そんな中、ぽつりと――エクボが呟いた。


「だが……よかった」


「……え?」


「俺は信じてたがな。お前はそんな奴じゃないからな」


エクボのぼそりとした言葉が、心臓の奥にまっすぐ届く。


胸が、きゅっと締めつけられる。


「エクボ……」


顔を逸らしながらも、静かに信頼を告げてくれた副ギルマスは、短く言い放つ。


「じゃ、あとは任せた。俺はレベリングに行ってくる」


さっさと踵を返して、ホールの出口に向かって歩き始めた。


……って、はやっ!


「……って、おいコラ待てコラァ!! エクボぉ!! この野郎!! 分配なしにするぞコラァ!!」


勢いよく叫ぶ俺の声に、ぴたりと足が止まる。


エクボはゆっくりと踵を返し、無表情のまま戻ってくると、一言だけ。


「……冗談だ」


「いや絶対本気だっただろ今の!」


思わず肩を怒らせて詰め寄ると、エクボは動じることなくうなずいた。


(この野郎……まったく顔に出ねぇ……)


頭を抱えながら、俺は手元に視線を戻す。


「じゃ、分配すっぞー」


爪に浮かぶ小指の“メール”アイコンをタップ。


ゲーム仕様どおりなら、ギルドマスターの権限でメンバー全員への一斉送信が可能なはずだ。


件名:【資金分配のお知らせ】

本文:ギルド再始動にあたり、ギルド倉庫資金の一部を全員に配布します。各自確認を。

―ギルマス・モリヒト


送信前に、念のためギルドメンバーリストと加入履歴を確認する。


(よし、現時点で新規加入者なし。自動日誌も異常なしっと)


一斉送信ボタンをタップ。


――ピコンッ。


ウィンドウが光り、各メンバーの画面に通知が飛ぶ。


「おおっ、来た来たー!」


「マジか! 本当に分配された!」


「ありがてぇ……!」


「モリヒト、マジ天使」


「そのまま嫁に来い」←誰だてめぇ


ホールの中は一気にお祭り騒ぎになった。笑い声、歓声、バカ騒ぎが飛び交う。


(……これでいい。これで、ちゃんと“ギルド”は始められる)


俺は少しだけ笑みを浮かべながら、資金一覧のウィンドウに目をやった。


【ギルド資金:159ギル】


(……見事なスッカラカンだな)


どこか清々しくなって、ふっと息を吐く。


その時、すっと俺の横に影が立った。


「モリヒト、これからどうするの?」


ミサカだった。いつの間にかぴたりと俺の隣に立っていて、猫耳がぴこぴこと揺れている。


「うーん。ギルド城の改装っすかな。ここで生活するなら、ちゃんと住めるようにしておかねーとな」


「でも、お金かかるよ?」


「……あぁ。それは俺の金でやるよ」


その答えに、ミサカはぱちりと瞬きをし――ふわりと微笑んだ。


まるで、“お前のそういうところが好き”とでも言いたげに。


「……なんだよその顔」


「別に~」


にやにやと笑いながら、ミサカは俺の腕にしがみついてくる。


胸の感触があたたかい……が、こいつ中身が男だってのを俺は知っている。


いやほんと、色々と複雑だな。


そのまま、俺たちは背後からついてくるエクボと一緒に、ギルド管理ルームへと向かった。

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