プロローグ 凍てつく鎖 ― 祝福されぬ花嫁 ―
――これは、ひとりの王女が氷の皇帝の心をそっと溶かしてゆく物語。
冷遇と愛憎が渦巻く冷たい皇城で、
すれ違いながら紡がれる愛。
ふたりが迎える雪解けの季節を、
ぜひ見届けてください。
(私が“聖鳥の皇后”に選ばれるなんて……でも、皇帝陛下は──)
凍える空気に満ちた大聖堂の中、祝福の鐘が静かに鳴り響く。
私は、ゆっくりと顔を上げた。
彼の瞳が私を映す日は、永遠に来ないのかもしれない。
それでも──私は、氷のような眼差しに暖かな光が灯ることを心の何処かで求めていた。
雪に覆われた、白亜の美しい城。
サードニクス帝国の大聖堂には、世界が凍ってしまったかのような冷たい静寂が漂っていた。
清らかな祝福の鐘が鳴り響いても、その音はあまりに遠く聞こえた。
隣に立つのは、凛々しく、美しい氷の神のような若き皇帝。
けれど、その瞳が私に向けられることは、初めて会った日からただの一度もなかった。
参列者たちは皆、静かに息を潜めていた。まるで、私たちの間をへだてる氷の壁が見えているかのように。
誰もが“それ”を見ないふりをして、儀式の進行だけを見つめている。
私の薬指に煌めく白銀の指輪は、あまりに冷たかった。
何の想いも、心からの誓いもなく──ただ無造作にはめられた婚姻の証。それはまるで、私を縛りつける凍てつく鎖のようだった。
まるで、これからの私の運命を告げているかのように──
(私はきっと、この城でも……)
心まで凍えるような冷たさの中で、私はそっとまぶたを伏せた。
視界の端では、薄青のステンドグラス越しに、しんしんと降り注ぐ雪が霞んでいる。
この凍える城に、春は本当に訪れるのだろうか──
雪のように冷えきった私の心に、その疑問だけが思い浮かんだ。
けれど、凍てつく空の向こうには、まだ知らぬ春の光が差し込むかのようだった。
次回、第一話「皇后選定の儀」
※ 第一話の《前日譚》となる短編もあります。宜しければご覧ください。




