第17話 夢の中の再会と、三人の新たな約束
文化祭から一ヶ月後のある夜。久しぶりに、あの白い空間で目を覚ました。
「ユイ!」
振り返ると、ミルとセピアがいた。二人とも、とても嬉しそうな顔をしている。
「みんな、久しぶり!」
夢の中での再会。最近は現実が充実していて、ここに来ることも少なくなっていた。
「ついに三人揃ったね」セピアが微笑む。「はい! ずっと会いたかったです」ミルも嬉しそう。
白い空間が変化して、見覚えのある場所になった。時計塔の屋上。でも、現実とは少し違う。もっと幻想的で、星空には本物の星と記録の星が混在している。
「きれい……」「夢の中だから、現実と《写し世》が混ざってるんだ」セピアが説明する。
三人で手を繋いで、星空の下に座る。
「ねえ」ミルが切り出す。「最近、夢の中でも成長してる気がするんです」
「成長?」「はい。ほら」
ミルが手をかざすと、小さな花が咲いた。データの花ではなく、本物のような質感を持った花。
「すごい! 前はデータっぽい形しか作れなかったのに」「ユイとセピア様のおかげです。心が豊かになって、想像力も」
セピアも新しい力を見せてくれた。
「僕も、これができるようになった」
セピアが立ち上がると、なんと分身が現れた。もう一人のセピアは、少し若く見える。
「これは、過去の僕の記録。夢の中でなら、時間を超えて呼び出せる」
「へえ!」
若いセピアが恥ずかしそうに手を振る。
「よろしく、未来の僕の大切な人たち」
そして消えていった。
「私は何ができるかな」
考えてみる。夢の中での私の力……
「あ、そうだ」
カメラを構える。でも、これは現実のカメラじゃない。心のカメラ。
「二人の一番幸せな瞬間を撮る」
シャッターを切ると、不思議なことが起きた。
写真が実体化して、その中から思い出が溢れ出す。
ミルが初めて「美味しい」と言った瞬間。 セピアが影を取り戻した時の笑顔。 三人で初めて手を繋いだ日。
「すごい……思い出が形になってる」「ユイの力、温かいです」ミルが感動している。
でも、ふとセピアが真剣な表情になった。
「実は、今日ここに来たのには理由があるんだ」
「理由?」「うん。三人で、新しい約束をしたくて」
セピアが私たちの手を取る。
「現実世界でも《写し世》でも、僕たちは一緒にいられるようになった。でも」
「でも?」「いつか、それぞれの道を歩む時が来るかもしれない」
ミルが不安そうな顔をする。
「それって、離れ離れになるってことですか?」「物理的には、そうかもしれない」セピアが優しく言う。「でも、心は違う」
私は理解した。
「だから、夢の中で約束するんだね」
「そう。ここは、距離も時間も関係ない。永遠に繋がっていられる場所」
三人で立ち上がる。
星空の下、手を繋いで円を作る。
「約束しよう」私が始める。「どんなに離れても、月に一度はここで会うこと」「約束します」ミルが続ける。「どんなに忙しくても、この繋がりを大切にすること」「約束する」セピアが締めくくる。「どんなに時が流れても、この想いを忘れないこと」
三人の約束が、光となって夜空に昇っていく。それは新しい星となって、夢の空に輝き始めた。
「私たちの星だ」「きれい……」「これで、いつでも思い出せる」
約束を終えて、三人でまた座る。
「ところで」ミルが思い出したように言う。「現実世界で、告白されたって話しましたっけ」
「聞いたよ。断ったんでしょ?」「はい。でも最近、また別の人に」
「モテるね〜」「そういうユイだって、この前ラブレター貰ってたじゃないですか」
「え!? なんで知ってるの!?」「データ管理の一環で、偶然……」「プライバシー!」
セピアが笑いながら二人を見ている。
「セピアも他人事じゃないよ」私が指摘する。「美咲ちゃんの友達が、セピアのファンクラブ作るって」
「ええ!?」「『影のある美少年の会』だって」「なにそれ……」
三人で笑い合う。現実世界での、ちょっと困った人気。
「でも」ミルが真剣な顔になる。「私は、やっぱりユイとセピア様以外は考えられません」
「ミル……」「恋愛とか、まだよく分からないけど。でも、一緒にいたい人は決まってます」
セピアも優しく微笑む。
「僕も同じ気持ちだよ」「私も」
恋人でも、友達でもない。でも、誰より大切な存在。
(この気持ちに、名前をつけたら何かが変わってしまいそうで、怖い)
ミルを見る。セピアを見る。二人とも、同じくらい大切。でも、それぞれへの想いは微妙に違って——
(ううん、今はこのままでいい。この温かい関係を、大切にしたい)
「ねえ」私は提案する。「夢の中で、したいことしよう」
「賛成!」「何する?」
考えた結果、三人で料理を作ることに。
夢の中のキッチンは、現実離れした設備が揃っている。
「空中で焼けるフライパン!」「自動で切れる包丁!」「でも、ちゃんと手作りしよう」
結局、普通に料理する三人。
夢の中でも、やることは変わらない。
「はい、完成!」
テーブルに並んだ料理。見た目は普通だけど、食べると——
「わあ、幸せの味がする」「データでは説明できない美味しさです」「心の味だね」
満足して、最後にもう一つ。
「写真撮ろう」
「夢の中でも?」「もちろん!」
三人で並んで、セルフタイマーをセット。
でも、夢の中の写真は不思議だった。
撮れた写真を見ると、そこには三人だけじゃなく、たくさんの人が写っている。
レンズ、美咲ちゃん、立花先輩、祖父、ミルに心を教えた少女、記録の人たち……
「みんな、心で繋がってるんだね」「素敵な写真です」「宝物にしよう」
朝が近づいてきた。白い空間に戻る時間。
「また来月」「うん」「楽しみにしてます」
最後にもう一度、三人で抱き合う。
「大好き」「私も」「僕も」
光に包まれて、それぞれの夢へ。
でも、これは別れじゃない。
また会える。必ず会える。
だって、約束したから。
目が覚めると、枕元に小さな星の欠片が。
夢の約束の証。
ミルとセピアも、きっと同じものを持っている。
窓の外を見ると、現実の空にも一つ、新しい星が輝いているような気がした。
私たちの絆の星。
永遠に消えない、三人の約束。
さあ、今日も素敵な一日の始まり。
現実でも夢でも、私たちは繋がっている。